別に、詮索するつもりは無い。何があっても名前は名前だし、私の大切な親友という事実は、何があっても覆る事はない。
もしそれが覆るとしたら…
『私』よりも『僕』の気持ちが勝っちゃった時かな。

先日のやり取りから、名前は藤次の事をあれこれ言ってこなくなった。突っぱねすぎちゃったあかな?でも、あの時は良いきっかけになるかなって思ったの。名前にもっと近づける、歩み寄れる良いきっかけ。
…ごめんね、上手くやれなくて。
「どこに行くの?」
「ゆめライブ」
お詫びに、その憂いを少しは晴らしてあげる。確かに藤次に付いては気に入らない部分が多いけど、あの人ほど性根悪くはないし。何よりいつまでも部屋でうじうじされるもの、鬱陶しいからね。
ゆめマスクを身につけて、名前の手を握りながら眠りについた。



「僕じゃないと駄目なんだよね」
千里と藤次がまごまごしていたところに、割って入る。
「え…千里に、藤次?」
「名前センパイ!と…誰デスカ?」
「ごめんね、急に乱入して」
「あっ!三毛門センパイかー!一瞬わかんなかった!」
ふぅん。千里、察しがいいじゃん。藤次は気がつくまでに結構かかったけどね。
「せ、先輩!俺は今日、新兎君と練習すると伝えたはずですが!」
「いいから、バディのゆめマイクつけて」
こっちはもう…相変わらずだよね。本当にしょうもない子。
いいから、黙って私に従って。
「んじゃ、オレはまず観客といきますかー!名前センパイも一緒に観ましょっ!期待度ナンバー3のセンパイのライブ見られるなんて、ラッキー!」
「う、うん」
名前が何か言いたげに私を見ている。
千里に手招きされるままに、移動するのかと思いきや、やっぱり耐えきれなかったのか踵を返して私の元まで駆け寄って来た。
「し、紫音…!」
「なぁに?」
本当、珍しいね。いつもはどこ吹く風な名前が、私をそんな顔で見つめてくるなんて。
「…駄目だよ、もうあんな事しちゃ」
「あんな事?」
「人前で…あんな、人を陥れるような事」
「名前?」
「ああいうの、好きじゃないの………嫌いなの」
友達なのにはっきり言えないでいてごめん、と、何故か名前が謝って来た。
なるほど、そういう事だったんだ。
藤次が気になっていた、というよりは私の言動がずっと心に引っかかってたんだね。
…気がつかなくて、ごめんね。
「もうしないよ、大丈夫」
「…うん、紫音が優しいの、知ってるから。あんな事したのにも理由が有るんだって、分かってる」
「でももう理由があってもしない。名前が嫌がる事はしたくないから。…約束」
赤く染まった頬に、軽くキスをした。
「へ」
「「うええええええええ!?!?」」
名前の間抜けな声と、男子2人の馬鹿みたいな雄叫びが響いた。
久しぶりに男の子の格好してるしね、たまにはそれらしい事をしても許されるかなって思ったんだけど。

「えっ…ええええええ!!?」
あ、名前も叫んだ。

ふぅん、意外に初心なんだ。




「2人ともスゴイスゴイ!大成功でしたよ〜!」
「紫音も藤次もすごく素敵だったよ!」
「ありがとう」
ちなみにライブは大成功。
ま、針宮藤次は僕に感謝してよね。

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