「ちづ、1年生達どうだった?」
「どうだった、とは?」
「藤次は元気にしてた?」
「ああ、透けてました」
「はぁ?」
1年の教室から戻れば、三毛門とうだうだ喋りながら残っていた名前が話しかけて来た。
「何?透けるって」
私の言葉を聞いて、三毛門も顔を顰めて会話に入ってくる。
「存在感が無さすぎて、物理的に透けてましたね」
「あの自信の塊みたいな子が?」
「先日のライブの失態が、よほど心に響いているのでしょう」
確かにあれは無様の極みだったから。針宮が白寮で本当に良かった。黒寮ならあんな失敗許されない。
「…紫音はあの後フォローしたの?」
「何で私が?」
「だって…同室だし、ペアだし」
三毛門には正直同情しますよ。ペアに恵まれない人は苦労するよね。あれなら三毛門1人でライブした方がマシどころか、三毛門1人の方が何百倍もいいんじゃない?
「そんな事言うなら、名前が慰めてあげたら?」
名前も何でそんなに後輩のことなんて気にかけるのやら。1年同様、仲良しごっこするのが大好きみたいだもんね。なんて言ったら流石に怒りに触れそうだから、飲み込んだ。
「う〜ん……あの子私を見かけると顔色悪くして逃げるから、話した事すらないんだよね…」
「何それ?」
三毛門が呆れながら吐き出した溜息は、名前に向けてなのか、針宮に向けてなのか。
まぁいいや。1年みたいなミジンコに興味は無いし、私はさっさと寮に帰ろう。
「そもそも紫音、何で藤次に突っかかるの?変わってるけど悪い子では無さそうだよ?」
それはまぁ、私も少し気になるところではあったので足を止めた。個人的興味、というよりは三毛門が白寮の中では強敵であるという認識においての、黒寮副寮長としての興味ではあるけど。
「名前には話してもいいけど…」
三毛門がその場に佇む私をチラリと見た。私には話したくないから出てけ、と視線が物語っていた。
「でもいいの?話して」
三毛門は恐らく、名前相手なら本当に話してもいいと思っている。でも、今三毛門が話せば、2人の仲は対等じゃなくなる。名前は何も話してくれないから…
三毛門だけが心の内を打ち明ければ、名前は自分も隠している事を話さなくては思うだろう。例え三毛門が話さなくてもいいと本心から言っても、名前は負い目のような感情を抱いてしまうだろう。
「ん〜…そんなに無理して問い詰める気もないし、別にいいや」
「そう」
何事も無かったように、いつもと変わらない抑揚で発せられた名前の一言で、針宮の話題は終わりを迎えた。三毛門の返事が、少し寂しそうに聞こえたのは、私の考え過ぎだろうか。
「お2人も早く寮に戻られては?見た目だけなら麗しいですしね、お気をつけて」
やめやめ。こんなの下らない。

2人の友情をごっこだなんて言う気は無いけど、三毛門くらいには話してもいいんじゃない?その方が名前も楽でしょう。

私に話せ、なんて我儘は言わないから。

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