オリエンテーションを行なっての、新兎君と獅子丸君の初ゆめライブ。どこから噂を聞きつけてきたのやら、名前も『楽しそう!』とついて来た。楽しそうなのは名前の方だと思う。

ゆめ世界にて。
「2人の間にバチバチと火花が散ってる…熱そうだ」
「メラメラしてるねぇ」
「ゆめだから、熱くはないですよ」
新兎君の話を聞いた通り、第三者から見ても2人の仲は良好とは言い難い。空気はまさに一髪触発と言える。そんな中で、奪い合いの様な形ででハート役を得たのは獅子丸君の方だった。
誘われた獅子丸君のゆめの世界は、米国の夜のように色鮮やかだ。激しいロック調のゆめライブ。俺は個人的に嫌いじゃない。そういえば、彼はよくUribosのTシャツを着ていたな。実際ロックが好きなんだろう。
隣にいた名前が「何だ仲良しじゃん」なんて笑っていた。個人的には仲良しとはまた違う何かな気がするのだけど…
余計なことを言うのはやめておこう。


「朝ごはんは、パン派?ご飯派?
「パンだ。つかハンバーガー」
「オレはごはん派!」
ゆめライブが終わると、案の定また始まってしまった。そう簡単に解決できるわだかまりでも無いようだ。
しかし…ここまで真逆だと逆に感心してしまうのは俺だけではないはずだ。
「……女のタイプは?ショートかロング」
「孝臣ってそういう事興味あったんだ!」
名前、どこに食いついているの。
そもそも2人の話がどんどんよく分からない方に向かっていってるのが悪い。
「ゆるふわ愛され巻き髪!」
「……俺はショートだ」
そして俺たちは何を見せられてるんだろう。
「全然気が合ってない」
望月君も一周まわって感心しているようだった。
「ちなみに時雨は?ショート?ロング?」
「はぁ…」
ああもうほら、平行線のやり取りに飽きてきた名前が、興味の矛先を俺に変更して来た。ニコニコと期待の眼差しで見つめられても困る。ここで正直に特に考えたこと無い、なんて答えてもつまらないと思われるんだろうな。それはそれで癪に触るというか、何となく納得いかないというか。
だからと言って名前の髪の長さを答えるのも違う気がするし。でも少しくらい俺だって反撃したくなる日はあるのだ。
「そういうのよく分からないけど…名前は今の髪型すごく似合ってると思うよ」
一拍、悩んだ末の答えだった。こんな事言っても、いつものおちゃらけた調子で『じゃあ一生この髪型キープする!』何て言われて終わりなんだろう、けど。
「あ、あ、ありがとう…」
予報に反して真っ赤な顔をしてお礼を言った名前を見て、俺の体温も急激に上がっていくのを感じた。いつも名前ばっかり余裕なのが悔しくて、少し俺の方もからかってみようと思っただけなのに…
「わ、私も時雨はその髪型がすごく似合ってると思う…」
「ありがとう…」
「うん……」

「先輩達、2人とも顔が真っ赤だ…」

慣れない事するんじゃなかった。望月君だっているのに、何やってるんだろう俺達。
これは全部新兎君と獅子丸君のせいに違いない。

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