なんだ、これ、気持ち悪ィ…
「孝臣、吐きそう?もうちょっと我慢できる?」
名前とかいう女が、俺の背中を摩った。笑い方が気に食わなくて、さっきまでは信用ならない女だと感じていたけど…背中に感じる手は優しい。少なくとも俺を心配する気持ちは見せかけでは無いのだと思えた。
「……意地悪だね」
「何か……変だ」
「うん、ゆまぴ達のライブは見てて楽しかったのに……なんかこのライブは……」
程度に差はあれど、不快感を感じているのは俺だけでは無いらしい。悠馬や花房、ニート野郎も少なからずこのライブに違和感を抱いているらしい。
「紫音…どうしたんだろ」
そして名前が心配そうにそう呟いたのが聞こえた。俺を摩る手が若干震えているのが気になる。
「俺……も、う…………限界……っ………ぇ」
しかし今は他人のことより自分のことだ。
気持ち悪くて仕方がない。ゆめの中なのに、こんなに気分が悪くなることがあるんだろうか。俺が俯いて軽くえづいていると、名前はギョッとして背中を摩る手を強めた。
「先生、止めた方がいいと思う…!」
「あー、こりゃダメだな」
気の抜けた桐谷の声が聞こえてきて、その後、歪んでいた光景は元どおりになった。三毛門がマイクを外したようだ。少しだけ気持ち悪さがマシになった。
「あーあ。ダウンが出ちゃったんだって」
憐れむような三毛門の声が聞こえてくる。
「紫音…」
「名前、見てくれてたんだ」
名前が何かを三毛門に訴えているけど、気持ち悪さが先行してほとんど理解出来なかった。
「あ、待って!」
そのうち三毛門がゆめから覚めるのを名前が追っていったのは分かった。
「千里、孝臣をよろしくね」
「えぇ、俺!?」
別にクソ兎の世話になるつもりねぇのに…余計な事言いやがって……
まぁ、吐き気との戦いの中で漠然と、訳分かんねぇ奴けど、嫌いではない。そうは思えるようになっていた。

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