※※めちゃくちゃ捏造
※※※むしろ何故くまりんが負けたのか誰か教えて下さいってレベルで過去も未来も捏造してます




「名前ちゃんが好き、大好き」
「俺の世界の中心は名前ちゃんだかんね」
「君は俺の勝利の女神様だよ」


真っ直ぐな凛ちゃんの愛の言葉を、素直に受け取ることが出来ずに何年が経っただろうか。
何でも持っていて、才能があって、いつも皆んなの中心にいる凛ちゃんからの好意は、私にとっては畏れ多い以外の何物でも無かった。私が凛ちゃんを好きか好きじゃないか、そう判断するよりも『私は凛ちゃんの隣には相応しくない』という感情がどうしても先立ってしまう。

「私…凛ちゃんにそんな事言ってもらえるような存在じゃないよ」

私から紡がれる煮え切らない返答を聞いて、凛ちゃんはいつも困ったように笑っていた。

「それでも俺は名前ちゃんが大好きだよ」

今なら分かる。彼は頑張って笑ってくれていたのだと。
凛ちゃんは真っ直ぐで、カッコよくて、頼りになって、世界の誰よりも強かったから。
強かったはずなのに…

「負けちった」
「りん、ちゃん…」

知ってた。
知らないでいる方が無理だった。あの世界最強の“久磨凛太朗”が負けた、という事実はテレビやネットで大きく騒がれていたから。
いつも自信満々で、晴れ晴れとした笑顔を灯していた凛ちゃんが、あの日どんな顔をしていたのか覚えていない。私がどんな言葉を投げかけたのかも、覚えていない。ただ気の利いた言葉の1つも言えなかったのだけは覚えてる。

「俺っち、しばらく海外まで飛んでくるわ。自分探しってやつかな☆」

心配しないで、なんてするに決まってる。
行かないで、側にいるから、そう言える程私は強くなくて。けど凛ちゃんだって、私が思っていたほど強くは無かったのだ。きっと、ずっと私の言葉に傷ついてた。それでも彼は悲しいほどに強くて優しいから、それを見せずに私に接してくれていただけだったんだ。
その日から凛ちゃんは海外を飛び回る毎日となった。一度海外にいってしまうと、通信端末を持たない凛ちゃんに、こちらから連絡を取る術は無い。
しかしながら久磨凛太朗という男の子は不思議で非現実的なまでに冴えたカンを持ち合わせていて、私に辛い事があって泣いている時、
「ヒーロー見参☆」
なんて笑って現れて、私の手を握っていてくれるのだ。それが一度や二度だけの出来事ではないからすごい。
「何でいつも駆けつけてくれるの?なんでいつも分かるの?」
と聞いたら、
「ヒロインの涙を拭うのはヒーローである俺の役目っしょ〜」
と言われてしまった。
なかなか捕まらない凛ちゃんが、私のトラブルには毎度毎度颯爽と駆けつける様を見て、時雨が生徒会業務が滞っている時に『苗字さん、ちょっと貴女のことを監禁してもいいですか?会長を呼び出す良い術が他に思いつかなくて…』と言い出したくらいだ。時雨もよっぽど疲れていたんだろう。あれは本気だった。タイミング良く帰って来た凛ちゃんのおかげで、監禁は免れたけど。やっぱり凛ちゃんはすごい。

とまぁ、凛ちゃんの愛を全面に受けて早何年になるだろうか。凛ちゃんは私に愛情を惜しみなく注ぐ事はあっても、私に愛情を求めたことは一度もなかった。だからだろうか、何となく、怖かったのだ。
私が彼に『私も好き』などと囁いた瞬間、そうでは無いな、と思われたらどうしよう。そんな悲観。凛ちゃんが私に求めているのは恋人というものではなく、飽くまでヒロインとしての私だったら…

「貴女は容姿にも才能にも恵まれているのに…なんというか悲観的ですよね」
「恵まれてるのかなぁ。凛ちゃん、一生、仁、3人と同じクラスだと自分なんてちっぽけな存在に思えてくるよ」
「まぁあの3人はまた特殊でしょう」
今日も専ら時雨と書類、書類、書類。
凛ちゃんが時雨に迷惑かけちゃってるから少しでも手伝わなきゃ、とか思ってやってるけど私は凛ちゃんの何だって言うんだ。
「…名前さんは知っていますか?」
「何を?」
時雨にしては歯切れの悪い問いだった。口に出す直前まで、言うか言わまいか迷いに迷った、と言った感じの。
「会長が…前に負けた相手とリベンジマッチを組んだそうです」
「……嘘でしょ?」
だってあれは、凛ちゃんにとって…
「メディアが今更面白おかしくああだこうだ言い始めたそうです。それを黙らせる為、と言ったところでしょうか」
ということは、凛ちゃんが望んだ試合ではないということ?
そんなのって、あんまりだ。遣る瀬無い。
「名前さん」
「え?」
「確かに貴女があの3人と比べたら自分を物足りなく感じてしまう気持ちは理解できます。ただ…」
時雨のこと、踏み出せなくて可哀想とか思ってた。でも私の踏み出せないとは違う。時雨は『踏み出すことが出来ない』で、私は『踏み出さない』だけ。私のはただの保身のための我儘なのだ。だからこそ、いつも時雨の言葉はストンと心に落ちてくる。
「久磨会長にとって、貴女以上に特別な人は居ないはずです」
時雨が凛ちゃんを好いている様子は伺えなかった。嫌ってはいないだろうけど、他の人より苛立ちの対象であることは間違い無いだろう。多分、凛ちゃんが勝とうが負けようが、時雨にとってはそこまで問題ではないはずだ。
「…貴女は後悔しないで下さいね」
だとしたら時雨は私のために、背中を押してくれている。時雨も気持ちを言葉にするのは苦手な方なのに、頑張ってくれてる。
少しだけ、託された気がした。私が踏み出すことで、時雨も少しだけでも踏み出せたら。
「行ってくるね」
「行ってらっしゃい」


凛ちゃんは私が側に居てほしいと思った時、側に居てくれる。だから今だって…ほらやっぱり、日本に帰ってきてる。
「名前ちゃんただいま〜!そんなに息切らせて走ってどしたん?」
ゼーハーと息を切らせながら凛ちゃん駆け寄った。駆けよって、駆けよったはいいけど何て声をかけようか全く考えていなかったことに気がつく。
「名前ちゃん?」
どうしよう、何て言おう。
凛ちゃんが好き、…なんか違う。頑張って、応援してる、観てるからね、違う、違う。
もっと、私も彼も納得出来る言葉は無いだろうか。
「…っ今度の試合、」
「あ、知ってたのねん。そうそう俺っちてば、」
「か、勝ったら…付き合ってあげる!」
「へ?」
絶対違う。何で上から目線なんだって、自分でも思った。でも、これなら、凛ちゃんが負けても良い言い訳が出来る。私と付き合いたくなかったから負けたんだって。でも、
「だから…勝ってね」
勝って。
勝って、そしたら私は素直になるし、凛ちゃんは時計の針を進めよう?あの日に囚われないで、下らないことに囚われないで、お互い前に進もう。
「…ありがとう」
私、凛ちゃんが世界で1番強くてカッコいいって信じてるから、そう在って欲しいって願ってる。
「ワンパンの秒で終わらせてくっから安心して☆」
そうなっても私を置いていかないでね。

「私、凛ちゃんのことが好き…!」
「…分かってる、知ってたよ」

私、凛ちゃんが泣いてるところなんて初めて見たよ。
今までごめんね。大好きだよ。



試合当日。
ゴングが鳴ると同時に凛ちゃんのストレートが相手の顔面を直撃し、試合は5秒も待たずにKO勝ちとして幕を閉じた。痛烈なほどに鮮やかなこのリベンジマッチは、伝説として語り継がれることになる。


試合後のインタビューで凛ちゃんはこう語っていた。
「絶対勝たなきゃって思ってたし、自分でも負けるビジョンなんて全く無かったのよねん」
「そこまで強く負けないという意識を持てたのはどうしてですか?」
「俺に勝利の女神ちゃんが微笑んでくれたから!あ、今は女神じゃなくてカノジョだけど」


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