「来てくれてありがとなっ」
今日はCD購入特典の握手会で、ファンの子と個別に交流出来るなかなか無い機会だ。
「真緒くん大好き〜」
「サンキュー、俺も大好きだ!」
俺は割と器用な方なので、軽い気持ちでこのくらいのリップサービスなら返してやる事が出来た。スバルに「サリーてば罪な男だな〜」とからかわれたけど、ファンの子もリップサービスだと分かってて喜んでくれてるから良くね?って思ってる。
また来るね、と言ってくれた子の顔を必死に記憶しながら一人一人捌いていると、順番待ちの列から何やら揉める声が聞こえてきた。
「別に俺は客じゃないし。この子の付き添い。」
「マイキー…!だから来ないでって言ったのに!」
「名前が行きたいなんて言わなきゃいい話だったじゃん。」
「真緒くんの握手会だよ!?行きたいよ!」
え?俺が何?
どうやら一人一枚整理券を持ってなきゃ会場に入れない規約にも関わらず、付き添いとか言う男子が整理券を持たずに無理やり入って来たらしい。全く引く気が無いその男子に根負けして、スタッフさん達まぁ男の子だし付き添いなら良いか、と入場を許可したみたいなんだけど…
「真緒くんの事が大好きです…!これからも応援してます!」
「は?大好き?」
コッエーーーーーーんだけどこの男子っ…!高校…いや中学生とかだよな!?「は?」のドスの効かせ方半端なかったんだけど絶対ヤンキーだろこれ!リップサービスとかごめん無理!
「…あ、ありがとな〜!」
何?彼氏?彼氏同伴で握手会来てるのこの子?やめようぜそういうの。せめて彼氏を納得させてから来ようぜ。俺の彼女に触ったら殺すバリに睨まれてんだけど、握手会だから握手しない訳にもいかないんだよ…!
「はいお終いな。」
俺の手と女の子の手が触れたか触れてないかのタイミングで、ヤンキー彼氏は女の子の手を横から掻っ攫っていった。剥がしのスタッフさん達もビックリのスピードだよ。ハイタッチ会でももっと接触出来るぞと思いつつも、マジで俺の彼女に触ったら殺すって顔してたから命拾いしたなってホッとしてしまった。
「えぇ!?握手してないんだけど!」
「したした。ガッチリしてた。オマエ興奮すると記憶飛ぶっていつも言ってんじゃん。それだよそれ。」
「も〜!マイキー帰ってよ…!」
「ん。帰ろ。」
「一人で帰って!」
「ヤダ。」
「真緒くん〜!」
「あはは…」
彼氏は俺と握手するはずだった女の子の手をガッチリ掴むと、嫌がるその子を半端引きずって出て行った。アイドルとしては彼氏を説得してでもあの子と握手してあげるべきだったのかもしれないけど無理だった。ヤンキー怖ぇよ。
後から鬼龍先輩が神妙な面持ちで顔を見せに来てくれて、「東卍のマイキーが来てたって聞いたけど大丈夫か?」と聞かれたから「誰っすかそれ」と尋ねれば「渋谷の暴走族の総長だよ。見た目は背の低い金髪デコッパチのガキなんだけどマジで強ぇ」と言われ、背筋がゾッとしてしまった。