※enstキャラが出張り気味




「あれ?名前さん。私が昨日から磨いていた石がどこに行ったか知らないかな?」
「苗字氏、至急でこの衣装をCrazy:Bに届けて欲しいのですが」
「今日Crazy:Bがライブやる会場の近くに美味しいパン屋さんがあるよね!買ってきて欲しいな名前ちゃん」

「私の身体は1つしかないので…」

勘弁してくれ。100歩譲って私が暇そうにしてるなら分かるのよ。今すごく忙しいからね?あと10分で得意先に送らなきゃいけないデータの最終チェックの最中だからね!?
石?さっき天満君がそんなような石を持っていたような…
衣装、まぁ、このデータが送り終わったら行きますよ。行けばいいんでしょう。
パン屋さん…巴君、私は貴女のパシリではないんで……あ、いえ、パシリです。買ってきます。

「あんたら苗字先輩にばっか仕事を頼みすぎなんすよ!衣装ならオレが届けて来るんで」
「さ、漣君…!」

ゲッソリしている私を見兼ねてか、漣君が七種君からお使いの衣装を引ったくってくれた。正直そのまま届けて欲しいくらいだけど、私が所属するCOSMIC PRODUCTIONというブラック企業は非常に面倒な組織なので、アイドルにそんなことさせたら先輩方に何を言われたか分かったもんじゃない。

「いいの。大丈夫。今データは送り終えたからダッシュで届けてくるよ」
「いやでも苗字先輩、その机にある書類の山って…」
「残業すればいけるから!大丈夫!私はコズプロの奴隷なんで!」

高額なお賃金を代償に人権を奪われております。見做し残業だからどれだけ働いてもお給料は変動しないのは納得いないけど、高校卒業したての小娘が貰えるお給料ではないから黙って働いてる。どうしてこうなった。
そもそも夢ノ咲学院に入学したのが間違いだった。中学時代とんでもないクズ男に捕まってしまい、別れるにも別れられず、だったら顔の良い男が沢山いるアイドル学園に行って新たな恋を探してやると思ってたら、何故かとんでもないドタバタ革命戦争に巻き込まれ、何故か巴君乱君と転校することになり玲明へ行き、何故かそのままコズプロに就職してる。本当に何故?
あんずちゃんはそこら辺うまくやってるみたいだから羨ましい。私は何が何だか分からないうちに、不本意にコズプロの奴隷になってしまっていた。何故。本当。何故。
幸いにもクズ男、もとい、元彼とは自然消滅出来たから当初の目的は達成出来たんだけど。失ったものが多過ぎた気がしなくもない。そもそも普通に別れれば良かったじゃんって思われるだろうけど、「別れよう」と言っても「別れる?何で?」と始まり、善悪も何もない謎理論で詰められて別れられなかったのだ。
奴は私が忙しい間も「今日会える?」と連絡して来たけど、忙しすぎて明日返事しようと思ってたら忘れて既読無視を繰り返してしまった。そこだけは悪いと思ってる。
最後の連絡は「もしかして忙しい?」だった。忙しいわ。大体あっちは高校に通ってるかどうかも謎なミステリアス極め過ぎ男だったので、お前みたいに暇じゃないんだわと理不尽な感情を抱いてしまった記憶がある。その連絡にすら返事を出来ずにいたら「わかった」と続け様に連絡が来たので、あっ私たち終わったんだ〜と思って号泣してしまったから私は私で面倒な女だなと猛省した。

そんなしょうもない女の末路が19歳にして会社の奴隷ですよ。



「今日も滅私・貢献・奉仕〜!」

そうそう。滅私、貢献、奉………何?
Crazy:Bへのお使いの最中、七種君のドMバージョンみたいなこと言ってる人に出会した。彼は私以上に荷物を抱え込み、忙しそうではあったけも、私とは違い生き生きと歩いていた。あ、やべ。目が合った。

「………」
「………」
「……あの?」
「あ!すいません。すごく良い負荷が掛かってそうな方だなと」
「すごく良い負荷!?」

ガン見されたから首を傾げれば、予想の斜め上の会話が始まってしまった。良い負荷って何?悪い負荷しかこの世には存在しないよ…!

「いいな〜。その負荷はどこでかけてもらえるですか?契約とか結んでます?あれなかなか捺印もらえないんですよねぇ」
「け、契約…?入社の時に捺印はしましたけど」
「え?貴女が捺印する側なんですか?奴隷契約を結んでもらう側ではなく?」
「奴隷契約!?」

なんかヤバい人に出会っちゃったな。さっさと切り上げてお使い済ませないと…

「あ、お急ぎでしたよね?奴隷は忙しいですもんね!分かります。今日も明日も明後日も滅私・貢献・奉仕!365日ず〜と奴隷!幸せ過ぎる!」
「流石にそこまでじゃありませんが!?」

突っ込まずにはいられないのよ。
年中無休で奴隷とかやってられないわ!てか何でこの人こんな幸せそうなの?

「え?休みとか欲しいんですか?奴隷なのに?」
「好きで奴隷やってるんじゃないんで!」
「好きで奴隷やってるんじゃないですか!?」
「好きで奴隷やってる人います!?!?」
「います!僕!明るく前向きな奴隷です〜!」

ガチもんのやべぇ奴に出会しちゃってるな。

「と、とにかく急いでるんで…!」
「あっ!待ってください!もし貴女が後ろ向きな奴隷ならその負荷を僕に頂戴?」
「後ろ向きな奴隷?負荷を頂戴!?」
「捺印して!ここに!そうしたら僕はもう君の奴隷だから!」
「変な書類に捺印しちゃいけないって副所長に言われてるんで!」

奴隷契約書と書かれた紙を突きつけられて追いかけられた。怖すぎる。チラッと内容見たけど、ただただ見返りを求めず奉仕したいという旨がズラッと記載されていて怖過ぎた。

「そんな書類に捺印する人なんています!?」
「いるよー!4人!君も捺印!」

もう4人もいるの?その4人もやばすぎるでしょ。
「捺印して」「嫌です」「捺印して」「嫌です」というやりとりを繰り返していたら、なかなか来ない私を見兼ねて探しに来てくれた桜河君が「名前はんに何とんのじゃコラ」とヤ○ザ顔負けのドス聞かせながら助けてくれた。桜河君は桜河君で普通に怖かった。
奴隷の人は桜河君にお尻蹴られて「助かりまーす!」と叫んでいた。

……ただのMなの?

「何やったん?あの不審者」
「明るく前向きな奴隷だって………って、あ゛!!!」
「どないしたん?」
「嘘…社員証落としたーーーーー!」

絶対さっき奴隷の人の揉めた時だ。ポケットから落ちちゃったんだ。あーあ、七種君に怒られる。始末書書かされる。厄日じゃん。









「ただいま帰りましたー!」
「…依央利、何それ」
「ああこれ。今日出会った女の子が落としちゃったんですよ」
「ふぅん」
「あれ?ふみやさん、それどうする気ですか?だめですよ悪用しちゃ」
「悪用なんかしない。持ち主知ってるから返しておく」
「また適当な嘘ついて!偽造して悪用する気なんでしょ!?ダメです!」
「そんなことしない。俺をなんだと思ってるの」
「伊藤ふみや」


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -