「名前ちゃん可愛い〜!」
「この従姉妹ちゃん達羨ましいなぁ」

手芸部の女子達からそんな声が聞こえてきて、オレは人知れず機嫌が良くなった。

苗字名前。今そこそこ人気の女子高生アイドルで、オレのイトコだ。
イトコと言ってもオレの母親の妹の旦那さんの連れ子だから、オレと名前に血の繋がりは無い。
手芸部の女子達が見て騒いでいるのは名前のツイッターで、先程従姉妹と出掛た時の写真を上げていたのはオレもチェック済み。従姉妹というのは勿論オレの妹のルナとマナのことだ。3姉妹でお出掛けするのだと楽しそうに計画していたのを横で見ていた。

煌びやかな世界で活躍する名前が所帯染みた団地の一室で妹の世話を焼いてる光景は、オレに取って見慣れたものだった。
ふと、名前との会話を思い出した。

「いつかタカちゃんが作ってくれた衣装でステージに立ちたいなぁ」
「すげーハードル高い願望じゃん」
「玲明においでよ!被服科に入って成績良ければチャンスあるよ。でもタカちゃんは秀越の制服のが似合うかも?」
「あー…勉強頑張るわ」

歳上の可愛いお姉さんにそう言われたら、やる気になってしまうのが中学生男子というものだろう。名前が相手だから尚更。「まぁ出来たら?」くらいの調子で返しつつも、内心は目指せ秀越学園だった。

「部長も名前ちゃんみたいな子、好きだったりします〜?」

部員の1人が揶揄う様にオレに話を振ってきた。

「可愛いよな。オレ歳上好みだから」
「そうなんですか!?」

おちゃらけたようにそう返せば、キャーキャーと喜ばれた。半分は…というか半分以上は本音だ。
歳上が好みというか、名前が好きだから、歳上の可愛いお姉さんに恋をしている、が正しい言い方だったというだけで。






「三ツ谷、特服作って欲しいんだけど」
「は?なんでまた。今の着れるだろ」

夜。集会終わりに幹部達と駄弁っていたら、
マイキーがそんな事を言い出した。マイキーの特服はまだ綺麗で、新調する必要があるようには見えない。身長だって成長期のわりには伸びてないはずだ。

「東卍のじゃなくてさ、今流行りの…こういうのだよ」

マイキーはスマホで何かを検索すると、オレを画面を突き付けて来た。画面には色とりどりの特攻服を着た人達の画像が表示されている。ただ、オレ達みたいな不良が着るようなそれではなく、所謂“オタク”が推しの名前を刺繍した特攻服が並んでいた。

「えっ…何?マイキーオタクだったのかよ」

全然そんな風には見えなかったけど。意外過ぎる。甘いものと喧嘩とバイクが好きなのだと思っていた我等が総長の、新たな一面が発覚した。

「オタクっていうか…エマの影響でさ。最近よくテレビとか出てる苗字名前ちゃんって分かる?あの子のこと今めちゃくちゃ推してる」
「………ハァ!?」

てっきりアニメキャラが好きとかそういう類の話かと思っていたら、突然出たイトコの名前に耳を疑った。

「何だよ。オレが名前ちゃん好きだったら悪いのかよ」
「い、いや…」

悪いっていうか…
どう答えるのが正解なんだ。実はアイツ、オレのイトコなんだぜ〜…とは言いたくないな。会わせろとか紹介しろとか言われてもヤダし。

「今度エマと名前ちゃんの握手会行くことになったから、気合い入れてこって思ってさ」
「え?じゃあ何?オレ、名前の名前を刺繍した特服作れって言われてんの?」
「何で名前ちゃんのこと呼び捨てにしてんのオマエ?」

あっ、マズった。マイキーの声がワントーン低くなって焦る。
というか何でオマエは彼氏面して怒ってるんだよ。

「あー…いや?ごめんちょっとビックリして動揺した」
「オレ同担拒否っていうらしいんだよな。名前ちゃんの男ファンみんな殴りたいって言ったらエマにそう言われた」

オレのイトコを推して同担拒否するな。

「んで?作ってくれんの?」
「えー、ああ〜…えっと……」

マジで言ってる?
そもそも何?握手会行くの?握手会行ってオレのイトコと握手すんの?マイキーが?

助けてドラケン。


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