センチメンタル「トムさん、好きです…好き、大好き…愛してます‥」 「うん、俺もだよ静雄。愛してんぞ」 「トムさ…、もっと、もっと言って下さい」 「仰せのとおりに」 彼はたまにこうして、情緒不安定になる。原因は分からない。 ただこう、なんだか俺の温もりを求めて、しがみ付いて離れなくなるのだ。 俺はそれを拒もうともしないし、むしろ受け入れたくて彼の話をうんうんと聞いて頭を撫ぜてやる。 頭を撫ぜて、軽くキスをして、にこりと微笑んで愛の言葉を囁くだけで彼は満足するようで、俺は先程からそれを延々と繰り返していた。 何故彼がこんなにもセンチメンタルになってしまうのかは分からないが、彼が愛の言葉を求めているなら存分に囁いてやろうじゃないか。 薄暗い部屋のベッドの上、二人で寝そべって抱きあっている。それがもう何時間も続くのだから傍から見たら可笑しいのだろう。 だが俺はまったく気にしない、気にならない。だって彼は、俺の温もりを早急に求めているのだから。 「なー…静雄よ、今日はどうしたんだ」 「‥おれにも、よくわからないです」 「分からないんじゃしょうがないよな、俺がずっとこうしててやるから、安心して泣けよ」 「…!」 俺は気づいていた。泣けと言わないと、彼は泣けないという事に。 彼がこうやって人の温もりを求めて来る時は、決まって顔は泣きそうに歪んでいる。 けれど一人じゃ上手く泣けないのだ。だからこうして、彼は俺を頼って片時も離れずしがみつく。 そして彼が泣き始めるまで、黙って背中を一定のリズムで叩いてみる。 ようやく彼は安心して泣ける場所を見つけたようで、わんわんと子供のように泣きじゃくり始めた。 また例の情報屋と何かやり合ったのかもしれない。変な事を吹きこまれたのかもしれない。 あるいは、その彼の特徴的なコンプレックスを誰かに悪いように言われたのかもしれない。 かもしれない、しか言えないのは彼からは何も聞いていないからだ。何度聞いても教えてくれないのだ。 俺はそれが気になって仕方無いが、理由無く泣きたくなる事ぐらい誰だってあるだろう。 その向けられる矛先が、物を破壊してやつ当たりしたりだとか人を傷つけたりしないだけ良い。俺はそう思っている。 今は俺の腕の中でわんわん泣いている。それでいいのだ。彼は自分で、安心して泣ける場所を見つけたようだから。 「静雄、あとでコンビニにプリン買いに行こうな」 「…ふぁ、い」 「明日はお前の大好きなバニラシェーキを奢ってやる」 「‥、はい」 「期間限定で出た新しいハンバーガーを食べて、そのあと腹ごなしに散歩でもするべ」 「トム…さ‥?」 何を言っているのだろうか、と泣きやんで鼻をぐすぐすしている静雄が頭の上に疑問符を沢山並べてこちらを見ている。 俺が一方的に言葉を発しているのだ。彼はどうしたらいいのか分からないのだろう。 しかし俺はその視線を気にせず一人で会話を続ける。ただの自己満足だ。 「静雄がそんなに不安がる事はないんだよ。お前には俺がついてる。だから安心して、俺を頼ってくれ」 「そ‥、な事言われたら、俺…また…ッ、ふぇ」 「折角泣きやんだのにまた泣くのか?静雄」 「だ‥って、トムさ、が‥優しすぎる、から…ッ」 「いいんだよ静雄、俺はただ、不安も幸せも何もかも全部、お前と分け合いたいだけなんだ」 「トムさぁッ…!すき、すきぃ‥ッ」 彼はこうして再び泣きじゃくり始める。俺はその彼を優しく抱き締めて、同じように頭を撫ぜてキスをして、「愛してる」と耳元で囁いてやる。 気持ちは浮上したようだから、もう大丈夫だろう。この涙はうれし涙だ。先程との涙とはきっと違う。 彼が泣きやんだらコンビニに行って一番高いプリンを買ってやろう。それから、行きも帰りも絶対に手を繋いだままにしてやるんだ。 真っ赤な顔をしてやめてと叫ぶ彼が目に浮かぶ。 そんな事を考えながら俺は、彼が落ち着くまでの間、ずっとずっとこうして抱きしめていた。 (泣きたい時は泣けばいい。イライラする時は俺にやつ当たりすればいい。辛い時は俺が傍にいる。お前を守ってやれるぐらいの器は持ってるつもりだ) (お前の幸せは俺の幸せだから) (いつでもこうやって、遠慮無く泣きついておいで) end. since*2010.05.28 なか |