ぱたぱた



ボロアパートの屋根を、大粒の雨がパタパタと音を奏でている。酷い大雨だ。
さっきのテレビの予報では、こちらに台風が近づいて来ているらしい。
トムさんのワイシャツにアイロンをかけながら、俺は窓の外を見やる。
どこからか飛ばされてきた小枝が、窓ガラスに張り付いた。だがそれもすぐに、滝のように空から落ちて来る雨によって下へ下へと流れて行った。

(ねむい、な…)

雨の音はとても心地良くて、酷く眠気を誘う。
何度かアイロンする手を止めた後、シャツを焦がしてはいけないと慌てて電源をオフにした。
俺は、雨は嫌いじゃない。むしろ好きな方だ。このしとしと降り続く音、雨の匂い、少し薄暗く曇った空。
それらが集まった空間が、堪らなく好きだった。雨が嫌いな奴は多いと思う。俺は少々捻くれている。

「駄目だ…眠い、寝よ‥」

完全に眠さに負けてそのままそこへ、ゴロリと横たわる。
アイロンをかけ終わったトムさんのワイシャツは、洗いたての匂いとアイロンでノリ付けした匂いにまみれていた。
無意識にそれを手に取り、身体にかけてしまう。これじゃあアイロンかけた意味が無い。
起きてからもう一度かけ直す事にしよう。うん、そうしよう。とにかく今は眠い。眠すぎる。
ほんのりと僅かに香るトムさんの香りと心地良い雨の音、それらに包まれ、俺は幸せな気持ちで眠りに就いた。



「…お、‥ずお、」

あれ、誰かに起こされているような気がする。でも俺はまだ眠いんだ。もう少し寝かせてくれ。
なんだよしつこいな、誰だ、よ。

「静雄、風邪ひくぞ」
「ふぁ?!」

再びトロリと眠りに吸い込まれそうになった間際、聞き慣れた愛する人の声で見事に引き戻される。
ガバリと身体を起こして声のする方へ意識を向けた。トムさんだ。俺の大好きな、トムさん。
身体を揺すっていた手を取り、自分の方へ引き寄せる。それから彼の胸の中に、飛び込んだ。
驚くトムさんを尻目に、俺は彼の背中に両腕を回して胸に顔をすりすりと擦りつける。
俺の、一番、だいすきな、におい。

「トムさ‥おかえりなさい」
「嗚呼、ただいま」

顔を離すとすぐにトムさんの顔が近づいて来て、深く口付けられた。
ぬるりと舌は歯列をなぞり、ちゅぷちゅぷと厭らしい音が雨の音に混じって響く。
酷く色気を含んだトムさんの口付けは俺の下半身を見事に直撃し、じわりと熱を持った。

「お前さ、俺のシャツかけて寝るとかそういう可愛い事すんなよな」
「…駄目でしたか‥?」
「駄目じゃねーけど、俺の心臓が爆発しそうになんだよ」
「爆発?いやです、爆発しちゃダメです…」
「なんだよお前…すげぇ可愛い」
「?」

そのまま床に押し倒され、右手でグッと股間を握られる。「勃っちまったか?」と問われれば「ハイ‥」と顔を真っ赤にして頷くしかない。
今日のトムさんはいつもより凄く格好良い気がする。
あー、もう駄目だ。アイロンかけるのは明日にしよう。今日はこのまま、流されてしまいたい。

「なぁ静雄、このままここでするべ」
「…は、はい‥ッ」

俺は彼が好きで、彼も恐らく俺の事を好いている。こう誘われてしまったら断る理由が無いだろう。
何だか色々考えている内に、プチプチとワイシャツのボタンを外され、胸が露わになる。彼は脱がすのが早いし、上手いのだ。
胸をゆっくりと指先で撫でられ、再び優しい口付けがやってくると、俺は、もう。
そっと目を閉じ俺は、彼に全てを委ねる事にした。

俺は雨は嫌いじゃない。トムさんが、べたべたに甘やかしてくれるから。


(俺も雨が好きだよ、お前が凄く甘えんぼさんになってくれるからな)




end.

since*2010.05.27 なか

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