例のスポブラ話今日も取り立ての仕事を終え、静雄を連れて帰宅する。 静雄の作った飯を食って、静雄が入れてくれた風呂に一緒に入って、静雄を隣に座らせて一緒にテレビを見た。 時折はにかんで笑う仕草にキュン、としつつ、髪を撫でてやったりキスを落としてやったりする。 もだもだしている内になんだか厭らしい空気になった。当たり前だろう。 愛し合っている相思相愛の二人が同じ空間で、更に先程までイチャイチャと肌を触れ合っていたら。 こうなっている事は誰もが分かっている事だろう。だがしかし。一体これは何だ。 いい雰囲気だったので静雄に深い口付けを与えながら、共に座っていたベッドにトサ、と押し倒してくしゃりと皺の寄ったワイシャツのボタンを外した瞬間俺の前に現れたのは。 「…なんでスポブラ?」 「なんすかそれ?」 俺の目の前に現れたのは、清潔感溢れる真っ白なスポブラ。何故だ。何故こいつがこれを当たり前のように着用している。 昨日脱がせた時はこんなの無かったよな?ちょっと待て、あれ?もしかしてこれ着けたまま今日一日仕事していたというのか? ピシリ、と石のように固まった俺を、静雄はどこまでも無知の子供のような瞳で見つめていた。 というか、スポブラを知らずに装着している?何故?ほんと何故?誰か教えて。 「コレ、何」 「え、何って、サポーター?…ですけど」 「んなわけねーだろ!誰に貰ったんだ、こんなモン」 「…幽ですけど。俺は生傷が絶えないから、胸の部分だけでも守れるようにって昨日の晩送ってきてくれたみたいで、速達で」 「お前は幽に騙されている、今すぐ外せ、頼むから…ッ」 「ふぇ?なんで外さないといけないんすか?あ、トムさんもいります?幽いっぱい送ってきてくれたんすよ、ダンボールで」 弟である平和島幽の命令は絶対なのか、はたまたブラコンである静雄のせいなのか、残念な静雄の頭の中ではスポブラ=サポーターの方程式が出来上がっているらしい。 勘弁してくれ幽よ…。何の防衛なの。お前は兄貴をどうしたいの。この下着はお前の趣味なのか、幽よ。 隠そうとも恥じろうともしない静雄の開放的な胸には、サイズぴったりのスポブラが収まっている。 右と左の胸の間の小さなピンクのリボンがポイントなのか、幽。本当に何を考えているのか小一時間問い詰めたい。 あの物静かで何を考えているのか分からない頭で考えた結果がこれなのか。そうなのか。 俺はどうしようもなく泣きたい衝動に駆られた。 「静雄、お前がそのサポーターだと思って装着している真っ白い布は、女が着けるブラジャーの一種だ」 「…え?!マジですか…ッ、やだ、恥ずかしい見ないでくださいトムさんッ」 「何今更恥ずかしがってんだ、お前は今日それ一日中着けて街歩いてたんだろ、もしかしたら皆釘付けだったかもしれんぞ。汗かいてた時に線が透けてたかもしれん」 「……馬鹿ですかッ、からかわないで下さいッ、」 「だがお前がした事はそういう事なんだ。頼むから昨日送られてきた物は全部幽宛てに送り返してやれ、すぐに」 「わっ、わかりました…ッ。嫌だ俺、何か凄ェ恥ずかしくなってきた…」 「それが普通の男の反応だ。まぁいいや、俺が脱がしてやっからとりあえず今日はヤるぞ」 「え?!トムさん?!俺、トムさんのスイッチがわかんねーっす!ちょ、やめ、ァアッ!」 その忌々しい清潔感溢れる下着をすぐさま取っ払い、その下から見えた胸の飾りを口に含む。 チロチロと舌で刺激してやれば、静雄はビクンビクンと肩を震わせた。 スポブラとっちまえばただの静雄だもん。冷静になれ俺。静雄可愛いぞ静雄。 遠慮がちに背中に回される静雄の腕に頬を緩めながら、俺たちは行為に夢中になった。 第一回プロレス大会が終了した後、お互いに煙草を吹かしながら先程の事について口を開く。 「…お前さ、いくら弟から貰ったもんだからって、何の躊躇いも無く使うのやめろよな」 「すんません、以後気をつけます…」 ようやく分かったかよ、自分の弟の恐ろしさがよ。 俺はとりあえず、幽が目の前に現れたら自分の前に正座させてガミガミと叱りたい気持ちになった。 (スポブラを知らないって…どんだけ女に対して無知なんだよお前は) end. 私は静雄をどうしたいのだろうか。茶会の課題。 since*2010.04.16 なか |