とある恋する男の脳内事情



時刻も正午を回り、朝よりかは暖かくなり大分過ごし易くなって来た頃。
池袋の喧嘩人形こと平和島静雄の脳は、八割方とある事で一杯になっていた。

(………ねみィ)

そうなのだ。眠い。とにかく眠い。
自分でも驚く程の睡魔に襲われ、道端のガードレールに持たれつつコックリコックリと頭が船を漕ぎそうになっている。
いっその事もうココに布団をべっしゃりと敷いて歩道を陣取り、今すぐに横になりたい。そして目を閉じて安らかに眠りたい。
しかしいけない。仮にも今はトムさんのコンビニ待ちである。
トムさんを放置プレイしてしまうような事を一瞬でも脳内で考えた自分を呪ってしまいたかった。
せめてもの眠気覚ましにと、気休め程度にしかならない煙草を吹かす。
ジリジリと口元に近付いてくる火種に気づかず、静雄の頭は不自然な動きを繰り返し始めた。

「しずお、しずお」
「‥ッ?!」
「煙草、あぶねーぞ」
「ふぁ!すんませんッ」

一瞬だけ記憶が飛んだ気がする。気が付いたら目の前に、コンビニ袋をぶら下げたトムさんが仁王立ちしていた。
煙草を咥えたまま意識を失っていたのか、慌てて短くなった煙草を携帯灰皿にぶち込む。
煙草もあぶねーけど、俺もあぶねェ。きっと今ノミ蟲に襲撃されたらあっさりと天国行きだっただろうか。
トムさん有難う起こしてくれて。本当にありがとう。大好きです、愛しています。

「今日ずっと眠そうだけどよ、寝てねーの?」
「…え、いやそんな事は…。でも、寝た記憶あんまないかも」
「おいおい大丈夫かよ…。俺でよかったら話聞くけど」
「あ、いえ、大丈夫っス。有難う御座います」
「静雄の大丈夫はアテにならねーからなァ。ほれ、コーヒー。眠気覚ましになればいいけど」
「ッス」

早速トムさんから頂いた缶コーヒーのプルタブに指を引っ掛けて、手前に起こす。かちゃりと良い音がした。
蓋の開いたそれに口をつけながら、今日の夜中から朝方にかけての出来事を思い出してみる。
何で俺はこんなにも眠いのだろうか。そういえば、昨日の夜中にあのウザすぎて視界にも入れたくないノミ蟲が目の前に現れて。
そんで夢中になって追いかけ回して、気が付いたら周りが明るくなってきて、さらに気が付いたら奴も見失っていたので一度帰宅したのだが。
奴は家の中まで追いかけて来る習性があるので、殺されない為にも警戒心をむき出しにして自宅待機していたら眠る事を忘れていたのかもしれない。
って言うかアイツのせいかよ。死ね。100回ぐらい死ね。頼むから死んでくれ。

「トムさん、今日トムさんの家行ってもいいスか」
「なんだよ急に、一緒に寝たいのか?…なんつって」
「…だとしたら嫌ですか」

自分には最高すぎるほどの休息出来る安置がある事を思い出した。
寝床を提供して頂く訳だし、俺も今日は頑張っちまおうか。最近忙しくてあんまり出来てなかった事だし。
時間の許す限りいっぱいトムさんを喜ばせる事をして、大好きな空間で大好きなトムさんと一緒に同じ時間を過ごして、そしてその大好きな空間で大好きなトムさんに抱きついていっぱい眠ろう。
うん、そうしよう。よし決めた。そういえば眠気も吹っ飛んだ気がする。さすがは俺のトムさんだぜ。

「嫌なわけねーだろ、いっぱい甘やかしちゃる」
「あー俺なんか眠気どっか行きました。仕事戻りましょう」
「なんだよ照れるなって静雄」
「照れてません」

途端に辺りが明るく感じて来てしまう俺は現金すぎる生き物だろうか。
頭の中がすっかりお花畑に支配されてしまった俺は、午後の仕事も張り切ってこなしていくのだった。

(今夜の事を考えるだけで俺は、もう)




end.

since*2010.04.22 なか
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