「また明日」が言えない



彼、田中トムの事を意識し始めたのは俺が中学生の頃からだ。
ガキの頃はまだ、意識していたと言っても尊敬出来る先輩として、という意味だったのにこの感情が「愛」だと気付いたのは最近の事である。
それに気づいてからは何となく彼と一緒に仕事するのが辛くなって、つい避けるように行動してしまう。
彼に対する、このどうしようもなく膨れ上がってしまった気持ちをどう伝えればいいのか分からない。

「静雄、お前これ好きだろ。やるよ」
「飯買って来てやるから待ってろ、静雄」
「顔色悪いんじゃねぇのか?平気か?」
「なぁ、静雄」
「静雄」

だからこんなもやもやした状況の時、彼の何気ない優しさは酷く苦しい物がある。
彼にとっては大した事ではないのかもしれない。
けれど俺にとってはとても大した事であるのだ。
優しくされるのは嬉しい、けど辛い。この想いを伝えたい、けど伝えられない。
伝えてしまったら壊れてしまうかもしれない、今まで築いて来たこの関係が。
仲の良い先輩と後輩、という関係が。それだけはどうしても嫌だ。
関係が壊れてしまう位なら、俺はこの感情を飲み込んでしまった方が良い。
彼が俺の事をどう思っているのかは分からない。知ってしまうのが怖いのかもしれない、俺は。


そんな気持ちのまま、今日も俺は彼の隣を歩いている。
夕暮れの明るい赤が視界に広がり、何だか眩しくて目が痛く辛い。
心の奥底から何かが込み上げてきそうで俺はそっと俯いた。

「静雄、この後飯行くべ」
「……‥、」
「…静雄?」

いつもならばすぐに即答しているこの返事も、今日は出来ない。
変に思われるんだからすぐ返事すればいいのに、何故俺はそれが出来ないのか。
傍にいるのが辛いから断りたい。でも断ればこの関係に亀裂が入るかもしれない。
どうしよう、俺はどうすればいいんだろう。途方に暮れる。
結局自分の知らない自分は、彼の隣でニコニコと笑いながら歩くのを望んでいるのか。
このドロドロした気持ちを抱えたまま、ずっと。
だから断れないんだろうか。噤んだままの口を開く事が出来ない。早く何か喋れ、俺。

「‥、じゃあマックの新商品…食べに行きましょう」
「よし、んじゃ早く行くべ」
「…うす」

必死に絞り出した声は、喉の奥が乾いて貼り付いていて酷く掠れていた。
変に思われていないだろうか。サングラスの奥の目は、きちんと笑えていただろうか。
早足で歩き出した彼の後ろを追う。
やはり俺は彼の隣に並ぶのを、自分のどこかで強く望んでいるのかもしれない。
良い方向の判断しか出来ない自分自身に腹が立つ。
別れの言葉を切りだして、さっさと帰ればいいのにそれが出来ないのだ。

俺は卑怯である。

(彼に対しては絶対に、「また明日」が言えないのだから)



end.

since*2010.11.18 なか

静雄片想い企画「先輩、あの」様に提出させて頂きました。
もだもだする静雄が可愛くてしょうがないです。有難う御座いました!
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