しとしと、と嫌な雨が降り続いている。
今日で5日目だ、湿気も酷い。
もう梅雨の時期は去ったはずなのに、実におかしな天気である。

「おい、元気ねぇな」
「…煩いねぇ、青崎さんには関係ないでしょう」
「痛むんだろう、その右目の傷が」
「…!」

図星を指され、不覚にもドキリとした。彼は気付いていた?いつから?
痛みのせいでうまく頭が回らない。

「痛い時は痛いって、素直に言え」

彼のその何気ない優しさに、不覚にも涙が溢れた。
止まらない。もう40近いジジイなのに、泣くな。泣くなよ俺。
言われた言葉自体は大した事無いのに、彼の言葉には重みがある。
思わず手の甲で零れそうな涙を拭う。

「お前は色々溜め過ぎなんだよ」

その仕草を繰り返していると、彼はくすりと微笑んでこちらへ近づいてきた。
ふいにくしゃり、と髪を撫ぜられる。
折角セットした髪が台無しだ。

「ほんと、煩いんだよねぇ…青崎さんは…ッ」

俯いて涙を拭うと、彼はそっと抱き寄せてくれた。

「痛い、痛いに決まってんだろう…青崎ィ…」
「そうか」
「おい、聞いてるのかい?青崎…ッ」
「おう、聞いてる聞いてる」

抱き寄せられた時の体勢が丁度、彼の肩口に俺の顔が来る状態になり悔しくて涙まみれの顔をぐりぐりと押しつける。
何と呟いても彼は、「そうか」を繰り返すだけだった。
これだからこいつは、この野郎は。
その優しさにまた、腹が立つ。

「落ち着いたか」
「…お陰様でねぇ…」

ずず、と鼻水を啜る。顔はもうぐちゃぐちゃだった。

「吐き出さないと、いけない時もあるだろう」
「…俺、アンタの事嫌いだよ」
「それは褒め言葉か?赤林」

思い切り睨んだのに、彼はそれはもう綺麗に綺麗に微笑んだのだった。

(アンタのその暖か過ぎる優しさが、時に物凄く辛いんだよねぇ)


泣き虫な赤鬼



end.

since*2010.10.24 なか
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