バス酔いの話



今日は高校生活の中で、楽しみランキング上位に入っているであろう修学旅行である。
行き先は秘密だ。なにやら長距離バス移動があるらしいのだが、ここで俺が苦手な乗り物ランキングを教えておこう。
1位はバス、2位はタクシー、3位は船だ。何とも言えないあのゆっくりと揺さぶられる感覚が酷く苦手で、俺は乗った瞬間に真っ青になる。
そして現在進行形で、バス酔いと真正面から格闘している真っ最中だった。
とりあえず隣の席に門田をキープしておいた。俺と門田はその…あれだ、いわゆるお付き合いしている仲だからだ。
門田の隣なら安心出来そうだし、バス酔いも少しはマシになるだろうなと思ったのだが、所詮バスである。
生まれた時からのお付き合いの乗り物酔いには、勝てるはずも無かった。

「…静雄?」
「‥、」
「顔真っ青だぞ、平気か?」

ばれた。心配されるのも嫌だったので、門田には乗り物酔いするという事を内緒にしていたのだが、門田は非常に勘の働く奴だったと思い出した。
門田の問いに、ふるふると首を横に振る。嫌な冷や汗がたらたらと顔面を伝う。
さらに緊急事態発生。ぶわりとこみ上げてくる何かに、思わず咄嗟に口元を右手で覆った。
席は門田の隣だし、おまけに窓側にしたのに、なんでこうなるんだ。

「静雄、これに出しちまえ。吐いた方が楽になるぞ」

門田が差し出してくれたのは、小さなコンビニ袋だった。周りに悟られないように小声で、ひそひそと話しかけてくれる。
こみ上げてくるものになのか、門田の優しさになのか、涙が頬を伝った。
たまに髪を撫でられ、たまに優しく背中を擦られて、俺の喉にも限界が訪れる。
とその時、のろのろと走行していたバスが、ゆっくりと緩やかな下り坂をふわりとカーブした。

(も、無理。げん、かい、、)

俺は、朝喰った物を全て綺麗さっぱり吐き出してしまったのであった。

それからの門田は迅速な対応をしてくれた。尊敬してしまう程に。
まず、俺の吐き出したアレが入った袋の口を縛り、バスに付属していた小さなエチケット袋に入れる。2重構造だ。
その後、まさかの自分のカバンに入れるという行動をとる。お願いだからやめてくれ、俺が持ってるからカバンに入れるとかやめてくれ。
さらに俺の汚れた口元を、ティッシュで丁寧に拭ってくれ、それをぐしゃぐしゃに握りしめて自分のポッケに入れた。
「もう大丈夫かもな、いっぱい出たしな」とケタケタと陽気に笑い、門田は再び俺の頭を撫ぜた。何か輝いて見える。
おまけに、先生に後ろの奴らと席を代わってくれるように交渉し始め、なんだかんだと時は流れて現在の俺は何と門田の膝の上に寝ているらしい。
所謂膝枕ってやつだ。一番後ろの席5つを盛大に二人占めし、俺はゴロリと横になって頭を一番端に座っている門田の膝に預けている。

「なんか…ごめん、かどた」
「気にすんなって…。俺は面倒見が良いと定評のある男だぜ」
「かどたカッコいい…すき‥」
「…何だよ、やめろよ。…照れるだろ」

本当にもう、色々溢れ出そうな位門田への愛が爆発しそうになって、横になっている門田の膝へと頬をすり寄せた。
くすぐってぇよ、と言われて、何だかじゃれ合いたくなり意地になってほれほれとさらに頬ずりをする。
他愛もない会話をしている間に俺自身の具合は大分良くなり、軽口も叩ける程に回復したらしい。
バスは俺達を目的地へといざなう。こっそり背中を屈ませ門田に口づけられた時にはもう、俺はバス酔いの事などすっかり忘れていた。

(部屋の割り当て、俺と門田の二人部屋なんだよな…やべぇ、ドキドキしてきた)


end.

since*2010.05.06 水沢
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