キャプテンは意外と辛い



「お菓子持って来るから先に上行ってて」
「さんきゅー、花井」

久しぶりに、学校帰り花井の家へ寄り道した。
躊躇いもせず当たり前のように花井の部屋へ入る。
ベッドに遠慮なく座ると、机にふと目につく物。
俺は、こんな事で喧嘩したくなかったのに。

「田島、お菓子こんなのしかなかったんだけど…」
「花井」
「え?」
「花井!」

しまい忘れた事にも気付かず、俺に見られた事にも気付かず、花井は煎餅とコーラを抱えてドアを開けた。
花井の姿が見えた瞬間怒鳴る俺に、花井は驚いたように首をかしげた。
しかし、俺がずいっと例の物を花井に突き出すと、「しまった」というような表情をして、とりあえず落ち着けと俺をなだめ花井はベッドに浅く腰かけた。

「何でこんなモンがここにあるんだよ」
「‥吸うと落ち着くんだよ、気分とか、色々」
「まだ未成年だろ!しかも、野球やってんのにこんなの吸って、体に影響したらどうすんだ!」

花井に突きだしたのは、煙草の箱だった。
野球部のキャプテンが喫煙だなんてそんなこと、許される事じゃない。
いや、キャプテンじゃなくてもそれは許される事ではないが。
ともかく、誰にも内緒で、隠れるように喫煙していた事に腹をたてた。
花井が色々苦労してるのは分かる。
胃薬だっていつも飲んでる事も知ってる。
キャプテンとして、いつも何か悩んでいる事も知ってる。
でも、でも。

「何か悩んでるなら一言ぐらい相談してくれたっていいだろ?友達だろ!」
「悪かったよ‥。田島、何をそんな怒ってんだ」
「花井は何でそんな落ち着いてんだよ!何でそんな、最初から、諦めたような顔してんだ‥っ」
「俺が勝手に悩んでるだけなんだよ。周りに迷惑はかけてない」
「花井‥、らしく、ないよ‥」
「俺らしいって何‥?ろくに野球も出来ないのに、みんなの前でキャプテンぶって、先生とかモモカンにぺこぺこしてるのが俺なのか?」
「違う‥違うよ花井。自分はつくらなくていいんだ、ありのままでいいんだ花井。何をそんな思いつめてんのか知らねェけど、俺が支えになるから‥っ、煙草なんかに逃げんな花井‥!」

なんだか悔しくて涙が出た。
自分の知らない所で花井は、こんなにも思い詰めて、自分が壊れてしまうまで頑張って。
今度は、花井を救ってやれなかった自分に腹が立った。悔しい。
悩みすら聞いてやれなかった自分が、悔しい。
何に悩んでるのかすら分からない自分が悔しい。

「花井、少しずつでいいから、話、聞かせてくれよ」

小さく嗚咽を漏らしながらコクンと頷く花井の体を、そっと抱き締める。
俺はこの日、初めて花井が泣く姿を見た。


END

田花の友情話。まだ結ばれてません。花井精神崩壊話。

since*2007.10.25
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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