おまつり賑やかなお囃子の音が遠ざかってゆく。随分遠くまで来てしまった。 しかしこの酔っ払いはどこまで迷惑をかければ気が済むのやら、ここまで来るのに大分時間がかかってしまったようだ。 先程から「とむしゃん、とむしゃん」と口元が怪しくむにゃむにゃと何か喋っている。 「静雄、お前飲みすぎだ。ちょっと頭冷やせ、ジュース買ってきてやっから」 「いやれすジュース…おれ、かるあみるくがいいれす!」 「そんなモン屋台にあるわけねぇだろ」 「やだやだお酒がいい…甘いおしゃけ…」 じたばたと子供のように暴れるので、折角着せてやった浴衣もすっかり着崩れている。 「あんまり我儘言うと、トムさん怒るぞ」 「…!‥ごめん、なしゃい…」 酔っ払いでも一応日本語は通じるのか、少々怒ったような口調で注意すると静雄はしょんぼりと金色の頭を項垂れた。 「とむしゃ…好きれす、好きだから、お願い…怒らないで…?」 涙声でそう呟く彼の身体を、しょうがないと言わんばかりに抱きしめた。 愛しくてたまらない。彼の本音が聞きたくてここまで酔わせたのは俺なのに。 まだ俺のご機嫌をうかがうというのか。 彼は酔った時位じゃないと本音を言ってくれないから。 「ごめんな静雄、頼りなくてごめん、ごめん…」 「…おれ、とむさんの事だいすきですよ?だから、安心して…くださ…」 俺よりも少しばかり縦にでかい彼の身体が、こちらに全体重を預けてくる。 何事かとよく見ると、聞こえてくるのは安らかな寝息。 またちゃんと我儘聞いてやれなかったな、静雄。来年はもっともっと我儘言って、祭り楽しもうな。 痛んだ金色を撫ぜて、その大きな脱力した身体を背負って歩き出す。 遠く離れても聞こえていたお囃子は、いつの間にか時折吹く風の音にすり替わっていた。 終 since*2010.08.08 なか |