3日目


スーパーに辿り着くと、そこには困り果てた顔の探し人がいた。

もっとも、彼をよく知らない人が見れば憂いを湛えたようにしか見えないのだろうが。
美形とは得である。


「見つけた!!スクアーロさん‥!」

息切れしながら私はスクアーロに駆け寄った。
思いの他焦っていたのか、自分でも気が付かないうちに私は走っていた。

「夜那‥」

振り返ったスクアーロは、不安で怯える子犬のような表情をしていた。
彼の性格上、こんなことは滅多にないはず。
余程混乱しているらしい。


「どうしたの、スクアーロさん。ホテルは?」

その単語を聞いた途端、スクアーロは私の肩を掴んで頭を振った。

「ここだ‥」
「は?」

「ここのはずなんだぁ!
つい昨日まで、ここは目立たないビジネスホテルだった!!」

彼には最早いつもの傲慢さはなく、ただの迷い子のようだった。

「本当にここ?道を間違ったりは‥」
「絶対にねぇ!!」

嫌な予感が当たってしまったらしい。
私はスクアーロをじっと見据えた後、深い溜め息をついた。

「事情が説明出来るかもしれない。家に来て」

踵を返そうとすると、背中から疑いの視線を感じた。

「‥嘘じゃねぇだろうな?」

「ったく、嘘ついてどうすんの。
あぁそうだ、頼みがあるんだけど」

振り返ると、落ち着きを取り戻したのか、幾分か可愛げのなくなったスクアーロがいた。

「あぁ?」

「今から家に着くまで絶対に日本語は喋らないでよね。
商店街の人たち撒くの、大変なんだから」

悪戯っぽく言えば、スクアーロは納得仕切らぬ表情ながら軽く頷いた。




「あら夜那ちゃん、さっきのイケメンくん見つかったのね!」

「はい、ご協力ありがとうございました」

商店街のおば様方が次々と好奇の目で声を掛けて来る。

「そのイケメン誰!?」

「外国の方よね、何人?」

「どういう関係!?」

数々の質問に、夜那は初めから用意された台詞のように淀みなく応えた。

「イタリアからウチの大学に来た留学生なんですよ。
イタリア語がまともに話せるのってあたしくらいなんで、サポーターやってるんです」

爽やかに語れば、皆口を揃えて流石は夜那だと賞賛するのだった。

その様はさながら、街のアイドルといった風体だった。






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