イケメン飛ばす。
何度来ても、広すぎるこの基地は好きになれそうにない。

久し振りの合同訓練も恙無く終了し、私は訓練前に別れたきりの後輩を探してブースをうろついていた。
いつもはろくすっぽ参加しない訓練にわざわざ出向いたのは、勿論私の意志ではない。
我らが隊長に先日の失態がバレてしまったのだ。
失態と言っても、あんなの正直運とタイミングの問題だと思う。
言いたい事はいろいろあったが、レイジさんには逆らえない。
ヒエラルキーというやつだ。現実は厳しいのだ。

そんな訳でかわいい後輩、千佳ちゃんと連れ立って本部へやって来たわけだが、お友達がブースを確保しておいてくれたらしく、仲良く隣り合わせのブースへ入って行った。

ちなみに千佳ちゃんは最初は私を気にして渋っていた事を記しておこう。
私が行かせたのだ、友情は大事だからね。

千佳ちゃんたちが使っていたブースのある通路に差し掛かった時、耳に飛び込んできた声に足が止まった。
軽薄そうな、明るく高い少年の声。
ちらりと覗けば、そこにはやはり目に痛いほどの赤い隊服が、何かを覗き込むように、同じ年頃の仲間たちで輪になっていた。
実に嫌な予感がする。

背筋を上る悪寒にUターンしたくなったが、よく見ればその奥でかわいいかわいい後輩が健気にも私の事を待っていた。
戻って他の道から行くには、時間がかかりすぎる。
長時間、あの小動物のような後輩を野獣の巣窟に放り込んで置くのは流石に良心が痛む。
深呼吸を一つして、己は空気だと自己暗示を掛けつつ、人波に紛れるように一歩を踏み出した。

狙撃手として、隠密の訓練は積んでいる。
逆流、順流の人の流れを読み、時に歩を合わせ、時にはずらして進んでいく。
円陣の横を通る時には息すら止めた。
なんとか千佳ちゃんの前まで辿り着き、声を掛けるために息を吸った途端、高らかにあの声が響き渡った。

「あああーっ!!彩さん!!!」

それは死刑宣告に等しかった。
思わずひっと息を飲んで、壊れたロボットのような動きで振り返る。

「彩さーーーーん!!!これみてくださいよ!」

赤い服が、何かの雑誌をこちらへ突き出して走ってきていた。
あの雑誌は、私が愛読しているファッション誌のような可愛いものではない。
見てないが、わかる。

あれは。
あれは、"危険物"だ。

「ぎゃぁぁぁああああ!!!!来るなバカ佐鳥!!!!!」

全力でダッシュした。
本気も本気のダッシュ(※トリオン体)だ。
千佳ちゃんのことは、頭からすっかり抜け落ちていた。

先程のやり取り(叫び声とも言う)で察したのか、通路に屯していた隊員たちはさっと端へ避け、目の前の道が開ける。
モーセかよ、というツッコミも浮かんでは来なかった。
曲がり角に差し掛かったところで、突如目の前に現れた黒い影に、私は思い切りぶつかった。

「わっ」
「あ、」

倒れるかと思ったが、影はしっかりと私を受け止め、衝撃を吸収した。
見上げた先にあったのは、凍てつく氷の彫像のように端正な顔。

「彩さん、お久しぶりで……」

ああああああ
ナラサカァァァァァァ


奴が何事か言っていたが、耳には入らない。
そのまま突き飛ばす。

前に進もうとしたが、少しの間が仇となった。

私は、後方から迫る赤い服によって、御用となったのであった。




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