嵐の前の


ヨーロッパはイタリアの奥地、人気のない鬱蒼とした森の中に巨大な屋敷が建っている。

城とも言えるような壮大な屋敷の一室、夕日の差し込む書斎に1人の男と少女がいた。

「任務だ。内容はこの書類を見ろ」

男は尊大な態度で椅子に座り、少女の方へ1枚の紙を渡す。
少女は軽く目を通すと、納得したように軽く頷いた。

「‥なるほど。了解しました」

少女の銀色の髪は夕暮れの橙色に染められていた。

「行ってこい」

男の血のように紅い瞳が少女の灰色の瞳を見据える。

「はい。必ず成功させてみせます」

少女は踵を返すと、異国へと旅立った。












所変わって、日本は並森町。

商店街に並んだ一軒の寿司屋から賑やかな声が聞こえてくる。

「行ってきまーっす」

"爽やか"を絵に描いたような少年は支度を整え、ドアに手をかける。

「あっお兄ちゃん待って!まだお弁当ができてないよ!!」

家の奥から、エプロンをつけた少女がかけてくる。
「ん?あっわりぃ、後で持ってきてくれるか?」

申し訳なさそうな表情で謝りながらも少年はうずうずしている。
早く行きたくて堪らないらしい。

「はいはい、行ってらっしゃい!」

諦めたように笑って、少女は少年をいつものように見送った。

「さて、あたしも準備をしないと」

少女は無造作にまとめていた髪を二つに結び直した。




これが僕らの、日常だった。




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