06

 


来てしまった。


沢田家を見て初めに思ったのは、そんな失礼極まりないことだった。

「ねぇお兄ちゃん」
「ん、どした?」

「‥‥‥辞書、取りに帰るね」

勿論、そのまま戻ってこないけど。

そんな私の考えを見透かしたように、武はがっちりと腕を掴んできた。

「ツナん家にもあるって」

「いや、お気に入りの辞書が‥」

「確かツナん家の辞書、俺ん家のと一緒だったぜ」


「‥‥‥お、お父さん心配するんじゃないかな!あたしいつも寄り道とかしないから。
だからお父さんにちょっと話して‥」

「もう連絡してあるぜ。
俺と一緒なら大丈夫だなって言ってた」

抜け目ない。
何も考えてないように見えるのに、武はいつもあたしの先手先手を行ってしまう。

「ダチ作るチャンスだって!な?」

「うー‥」



なんだかんだと抵抗する私を(武が)抑えつけ、私達は沢田家にお邪魔した。


沢田くんのお母さんはもうすぐ14歳になる子供がいるとは思えないくらい、若くて美人で可愛らしい人だった。
そして、沢田家には何故か大量の居候が居た。
大体の人が学校で見たことがあったけれど、あれだけ濃い人達を平然と受け入れる沢田くんのお母さんは凄いと思う。

いや、うちの父さんもやりかねないか。


「あ、じゃあオレ飲み物持ってくるよ。みんな適当に荷物置いて待ってて」

自分も手伝うと言う獄寺くんをやんわりと制止して、沢田くんは下に降りた。

その時、どこからか現れた居候さんの1人がちゃおっス、と挨拶?しながら武の肩に慣れた様子で飛び乗った。

小さい体でよくそんなにジャンプできるものだと感心していると、そのスーツを着こなした赤ん坊がこちらへ凡そ赤ん坊らしからぬ妖しげな笑みを向ける。

「お前が山本調だな」

「え‥‥あ、はい」

思わず敬語になってしまうくらい、なんと言うか、貫禄のある人だ。
確かリボーンさんといったその赤ん坊は、私を暫く観察した後にニヤリと笑って言った。


「お前、今日こいつらのかてきょーやれ」


「!!?」

「「な、何いってんだよ(すか)、リボーン(さん)!」」

ちょうど沢田くんが戻ってきたらしく、獄寺くんと沢田くんのナイスコンビネーションなツッコミが入れられた。

「こいつの実力を見る為だぞ。
なんだかんだでお前、学習プラン考えてあるんだろ?」

「え?そうなの、調ちゃん?」

あたしは何も言えなかった。
確かに、嫌だ嫌だと言いつつも私はこの勉強会に少しだけ胸を踊らせていたのだから。


「‥‥あの、沢田さん」

「え!?な、何?」

珍しく、本当に珍しく武と恭弥さん以外の男の子に話し掛けた。
沢田くんも普段のあたしを知ってるから、吃驚したみたいだった。

「小学校の算数の教科書、ありますか?」

出来れば1年生から、と言うと沢田くんは少し考えてから確かあったと、部屋中を漁りだした。
あたしは覚悟を決めて銀髪の留学生に向き直った。

「ヴィンチくんは小学校からの教科書を全部読んで頭に入れて下さい。
‥出来ますか?」

「?文字数によるけど。たぶん大丈夫だぜ」

思った通りの返事に満足して、次に沢田くんの後ろ姿に声をかけた。

「沢田さんは今回どの位の点が目標ですか?」

沢田くんは恥ずかそうに振り返って、「追試がなかったら良いなって」と言った。

確か追試があるのは国数英で、赤点以下のはず。
短期間で伸ばし辛い科目だけに、焦点を絞った対策をしなきゃ。

「じゃあ沢田さんは、国語のワークを覚えるくらい繰り返しやって下さい」

問題は理解しなくて良い、問題文を見たら反射的に答えが出るくらいやって欲しいと言うと、沢田くんは不思議そうにしながらもそれなら出来そうだと言った。


「なぁ、オレは?」

「武は教科書を見ながら問題集をやって。分からなかったら聞いてね」

おう、と武が至極嬉しそうに言ったのを見て、小学生の頃はこうした勉強会を沢山開いていたのを思い出した。



「獄寺はどーすんだ?」

リボーンさんが私の肩に乗り移りながら言った。
なんだか肩がくすぐったい。

「獄寺さんはヴィンチくんのフォローをお願いします」


「んな!!なんで俺が‥」

はっとして見ると、真っ赤に怒る獄寺くんがいた。
調子に乗り過ぎてしまったみたいだ。

「ご、ごめんなさい!
私なんかの言うことなんて、聞きたくないですよね‥
ごめんなさい」

恥ずかしい、穴があったら埋まってしまいたい。
うなだれて縮こまっていると、頭に何か暖かいものが乗った。
その先には、銀髪が見えた。

「‥ヴィンチくん‥‥?」

「んな心配しなくたって、獄寺は俺を教えるのが嫌だっただけだって。
調ちゃんは関係ねぇよ」

留学生さんは私の頭をぽんぽんと軽く叩いた。な、と言われた獄寺くんを見ると、不本意そうだけど頷いていた。

「‥なんで俺がこいつに教える役なんだよ」

「獄寺さんは、イタリア語分かるから‥頭良いし、ヴィンチくんが分からない言葉あったら通訳してあげて欲しいなって」

獄寺くんは渋々ながら引き受けてくれた。
やっぱり、見た目より優しい人みたいだ。



私と獄寺くんは質問されるまでは好きに勉強する事にして、各々テスト勉強に取り掛かった。

 

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