04

 
俺は荷物を半分持つと提案し、彼女と一緒に帰ることにした。
家に持ち帰り、製本作業をするのだそうだ。


「いや〜助かったわ、ありがとな調ちゃん」
「‥なんのことですか?」

とぼけているのか、本当に天然なのか。
おそらくは前者だろうが、特に問い詰めることでもない。
彼女に助けられたのには変わらないのだから。

「まぁいいや。で、あれ誰?」

あの少年の事を問うと、彼女は苦笑混じりで応えた。

「雲雀恭弥さん。誰よりも並盛を愛する、並盛中最恐の不良にして最凶の風紀委員長。
っていうのが一般的な見方ですね」
「?」

疑問符を浮かべる俺に気づいたのか、彼女はぎこちなく微笑んだ。

「本当は優しい人だと思うんです」

あくまでもあたしは、なんですけど、と自嘲気味に笑う彼女に、何か不思議な感覚を覚えた。
遥か昔から知っているような、懐かしさにも似た感覚。



「俺さ、兄貴がいるんだ」

「‥そうなんですか、」

何故突然こんな事を言い出したのか、自分でもよく分からない。
彼女は少し驚きはしたが、すぐに相槌を打った。
「うん。だいぶ年が離れてんだ、7歳上なの」「へぇ、」

「俺の自慢の兄貴だよ。格好よくて信念があって強くて、でも優しいところもあって。
憧れなんだ」

イタリアで今も必死で働いているだろう兄を想像して、少し顔が緩むのを感じる。

「素敵ですね。
あ、あたしもね、お兄ちゃんがいるんです」

「!へぇ、どんな人?」

一日隣の席に居たが、彼女から話してきたのはこれが初めてだ。

「双子のお兄ちゃんで、小さい頃からずっとあたしのこと守ってくれてる、
元気で明るくて人気者のお兄ちゃんなんです」

心なしか、彼女の表情が柔らかくなった気がする。

「ん?双子っつーことは、同じ学年か」

「はい。同じクラスの山本武っていう男の子なんですけど、わかります?」

山本‥確かそんな名前で呼ばれていた長身の男子がいた気がする。

「あー‥もしかして、あの爽やか少年?」

「あ、たぶんその人‥」

苦笑いしつつも彼女はどこか誇らしげで、兄が大好きなんだと分かる。


「なんか、仲良くなれそうだな、俺ら」
「‥えっ!?」
 少し後ろを歩いていた彼女の足が止まる。
俺は振り返って、笑いかけた。

「2人共兄貴が大好きだからさ」

彼女はすぐに薄く笑って言った。

「それだけで仲良くなれたら苦労しないですよ」
「ははっ、ま、それもそうか」

存外、この少女はリアリストらしい。
印象では浮世離れした、夢見がちな少女だと思っていたのだが。

珍しく俺の兄貴譲りの勘が効かなかったというわけだ。



「とにかくさ、これからしばらくは嫌でも隣の席なんだから。
仲良くしようぜ!」

応えて笑った彼女は、少し嬉しそうで、悲しそうだった。


その笑顔を、俺は確かに知っていた。

 

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