『現在物語 -イマガタリ-』
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窓からの明かりのみの仄暗い部屋には、2つの長身の影があった。

1人は玉座に悠々と座し、荒々しい中にも気品を感じさせる様子で、傍に立つもう1人に指令を下した。


「書庫にテュールが纏めさせたヴァリアー史がある。
あれを洗ってこい」

長い銀髪の男は思惑を図ろうと真紅の瞳を見据えたが、強い光を湛えたその瞳からは何も窺うことは出来なかった。

「‥了解したぜぇ、ボス」

それ以上の詮索は止め、男は示された場所へ向かった。
珍しく何も投げられなかったな、と思いながら。













賑やかなイタリアの市街地から隔離されたような、深い森の中心。
その一角にある暗殺部隊ヴァリアー直属の医療機関は母体であるヴァリアー同様、その能力の高さで知られていた。
仕事柄、命の危険に晒される事が少なくない隊員たちを数多く治療し、戦地へ送り出してきた。

医師たちからすれば、此処ほど嫌な職場はない。
理不尽な暴力、罵詈雑言、そして何より、患者を戦線復帰させる事。


今までのどの患者よりも、復帰させたくなかった。

元来、こんなところに居る筈ではなかったのだ。
彼女には彼女の生活とファミリーがあって、もうこの血生臭い場所とは無縁の筈だった。
その元凶は全て奴で、その復讐はもう済んだというのに。

今彼女を縛りつけているのは何だろうか。
責任感では無いようなのが、せめてもの救いだった。

敢えて何かを挙げるとすれば、それはきっと――















医療機関特有の心地良い静けさを破って、大きな足音が此方へ近付いてきた。
早足でもゆっくり歩いているわけでもなく、自信に溢れたこのリズムが私は好きだ。

バァンと扉が悲鳴をあげて開いた。

「‥もっと普通に入って来れないのかい、スクアーロ」

銀髪を靡かせて、スクアーロはずかずかと侵入してきた。


「るせぇぞぉ。ルナ、すぐに任務に復帰するってのは本当らしいな」

ベッドの脇の椅子にどっかりと腰掛けながら、スクアーロは部屋の隅に積まれた書類ね山に目をやった。

「勿論さ。ヴァリアーはいつでも忙しい。休んでる暇なんかないよ」

書類にペンを走らせながら応えれば、スクアーロは不満そうに鼻を鳴らした。


「まぁ、そんな事はどうでも良いんだぁ」

スクアーロにしては異常なほどの落ち着きぶりだ。
彼も遂にネジが飛んだのかもしれない。


「ルナ。てめぇに、ヴァリアーの昔話をしてやる」


そしてスクアーロは、ぽつりぽつりと話し出した。
 
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