『雲がかり』
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彼女は屋敷に忍び込んでいた。

階下からは大勢の人の声や動く音、軽やかな音楽などが聞こえる。
標的主催のパーティーが開かれているという情報は正しかったようだ。
自分が少しほっとしているのに気づいて、嘲笑がこぼれた。
これくらいで気を抜いちゃいけない。
今回の任務はいつもとは違うのだ。

彼女は雑念を追い払うように頭を振って、意識を再び任務へと集中させた。
周囲を充分に警戒しながら、確実にターゲットがいるという部屋へ近づいていく。

慎重に扉を開き、彼女はその部屋へ侵入した。


「あぁ‥‥まいったな」














ヴァリアー邸はいつにも増して騒がしく、空気はピリピリと張り詰めていた。

「なぁ、聞いたか?」
「あれだろ、ルナ様の」
「やっぱあんなガキじゃ、幹部は務まらねぇんだよ」
「いやいや、実際あの人は強いぜ。しかもどんどん強くなっていってる」

「まぁな。そのルナ様が‥」

隊員たちの間に重苦しい空気が立ち込める。
そのとき、ざわめく邸内でも一際大きな声が彼らに向けられた。

「う゛ぉぉおい!何があったぁ?」

声の主、S・スクアーロはその長い銀髪を靡かせて隊員の集まる大広間へと入ってきた。
スクアーロはちょうど任務から帰ってきたところらしい。

「スクアーロ様!実は、ルナ様が任務で重傷を負い意識不明となられ、今緊急手術ということで‥」

「んだとぉ!?」

スクアーロは任務から帰ったそのままの格好で病棟へと向かった。









「スクアーロ!どうしましょう、ルナちゃんが‥」

病室の前には狼狽えるルッスーリア始め、幹部の大半が揃っていた。
半信半疑だったのだが、どうやら本当だったらしい。
急に全身から汗が噴き出した。

「どういうことだぁ?何があった」
先程と同じことを再度問うた。

「それがさ、俺らも知らされてねぇの」

ベルフェゴールは珍しく笑顔を消し、不満げな様子で座っていた。
その膝に乗ったマーモンはベルの言葉に軽く肯定の声を発し、それきり口を噤んだ。


話す事もなく、また立ち去る気にもなれないまま、沈黙の時間だけが流れる。
ある者は己が身が引き裂かれるほどにその身を案じ、またある者は"遊び"相手の喪失に不安を覚え、また別の者は死後の世界に思いを馳せた。

そしてスクアーロは、自分が何を考えているのか解らなくなり、動揺していた。
少し前なら、役立たずだと鼻で笑ったところだろう。
だが今は、笑うどころかあいつが死んでしまったらと思うと全身の震えが止まらない。
これが、ルッスーリアの言っていた“恋”というものなのだろうか。

これまで一度も恋をした事のないスクアーロには判断のしようがなかった。
 
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