『彼らの、』
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風の音と夜の闇に紛れ、1人の長身の男と男の腹ほどしかない小柄な少女が屋根の上に潜んでいた。
男の髪は月のように白銀に輝き、鋭い灰色の瞳はある一点を睨みつけて離さない。
「…ここがアジトかぁ?」
「そうだよ。下見には僕も参加してたからね、間違いない」
応えた少女は無造作なポニーテールにまとめた漆黒の髪を風になびかせ、黒曜石のような瞳は辺りをぼんやりと見つめている。
一帯に広がる閑静な高級住宅街。
その一角の何の変哲もない民家が、今回のターゲットらしい。
アジトをわざと民家に紛れ込ませるのは別に珍しい事じゃない。
小さいファミリーなら、その方が安全だからだ。
「ファミリーはごく小規模、本来なら1人でもお釣りがくるような任務なんだけど、今回は隊員の募集と密書の確保も兼ねてるんだ」
前の任務の後直接この任務についた俺に任務の概要を説明するが、聞き慣れない任務内容に俺は首を傾げる。
「隊員の募集だぁ?」
「ここのファミリ-は少数精鋭で有名なのさ。
先のリング戦でも通常任務でも平隊員が大量に死んだからね、臨時の補充だよ」
あと元副隊長の裏切りだっけ?
と知らないはずの過去の任務をつらつらとあげていく。
「…てめぇ、何で知ってやがる」
「ボスと師匠に聞いたよ」
あぁ、そうだ。
数ヶ月前に突然ザンザスが連れてきたコイツは何故か、ザンザスとマーモンに気に入られているんだった。
特にマーモンはコイツを溺愛していて、コイツ自身も奴を“師匠”と呼びマーモンには特に懐いている。
「う゛ぉぉい、とにかくさっさと終わらせるぞぉ」
早くこの不愉快なガキとの任務を終わらせようとそう言うと、相変わらずの無表情が少し動く。
「…そんなにヤりたかったのなら、僕も大人しく待ってたのに」
完全に馬鹿にして遊んでいる。
わかってはいても、無視できないのが自分の性分で。
「んだとぉ!!?違ぇっ俺はだなぁ!」
「はいはい、とりあえず君は密書の方を頼むよ。
君の目利きは信用できないからね」
地図を此方へ放りながら言った。
「信用できねぇだとぉ!?」
「‥山本武、だっけ」
またマーモンかザンザスの入れ知恵だろう。
奴の力を見誤って負けたという前科があるため、反論はできなかった。
出掛かった言葉を無理やり飲み込み、地図を握って敵のアジトへ向かった。
密書は簡単に手に入った。
ボスと思しき男が守っていたが、軽くあしらい念の為命は残して部屋に置いてきた。
命を奪った後で文句を言われては適わない。
少女の方はどうなっただろうか。
廊下に出ると、辛うじて命を繋いでいる状態の男たちがそこかしこに倒れていた。
息をしている辺り、彼らは隊員として連れて行くつもりなのだろう。
半死体の男たちを掻き分けて進めば、未だ戦闘中の漆黒が見えた。
軽いフットワークで敵を翻弄し、錯覚や錯視を自在に操ってあたかも幻術かのように見せる。
まだ平隊員だった数カ月前に1度だけ見たが、あの頃より格段に強くなっている。
端から見ている俺でさえ、アイツの動きが掴めない。
それに、
「(なんて楽しそうに戦うんだぁ…)」
普段はピクリとしか変わらない表情が一変、初めて見る笑顔だ。
普段は何事にも興味を示さないコイツが、任務遂行にやたら執着する理由が今わかった。
きっとこの少女はあの自称王子にも匹敵するくらい殺しが好きなのだろう。
感情がないと思っていたコイツにも喜という感情があることに、ただ驚いた。
ボゥン
控えめな爆発音と共に任務は終了する。
まだ興奮が冷めないのか紅潮した頬をそのままに少女は男に振り返る。
「お疲れ様。おかげで楽しい任務だったよ」
俺はコイツが大嫌いだ。
だが、もう少しコイツの事を知りたいと思ったのは、確かだった。
現実的非日常(じゃ、彼らは運んでくれるよね)
(‥っざけんなぁ゛!!!)
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