10.1
柔らかい寝床で、長旅の疲れが和らいだ頃。
私達の訓練が始まることになった。
しかし、着の身着のままで旅立った私には、道中で元帥に買っていただいたワンピースと最初に着ていた服しか手持ちの服がない。
村で着ていたのはいわゆるインディアン装束で、村の人々は軽々と動いていたが、慣れない私にとっては動きやすい服とは言えない。
それに、思い出とともに大切に取って置きたかった。
仕方なく一番飾りの少ないワンピースを着て訓練場へ向かうと、ティエドール元帥とリナリーが待っていた。
ラビとブックマンはまだ来ていないらしい。
「あっ!そうよね、動きやすい服なんて持ってないわよね……
ごめんなさい、気付かなくて。」
美少女の心底申し訳なさそうな顔に、こちらが申し訳なくなってしまう。
「いえ!わたしもいわなかったので!
はじめまして、山城梓です。
よろしくお願いします。」
「私はリナリー・リーよ。
私の服を貸すから、少し待ってて!」
そう言うと、リナリーはイノセンスを起動させて文字通り飛んでいってしまった。
「あれが彼女の対アクマ武器、黒い靴だよ。」
ティエドール元帥の解説にふんふんと頷いてみせる。
なんとも汎用性の高い武器だけれど、初めからそうだったわけではない。
リナリーのこれまでの努力によって、黒い靴はこれほどまでに自由度が高くなったのだという。
「リーは今いるエクソシストの中でもかなり長く教団にいるから、なかなか追いつけるものではないけれど……
彼女を目標に、頑張ってみなさい。」
「はい!」
私もあんな風に、対アクマ武器と共にあるのが自然になる日がいつか来るのだろうか。
リナリーは風のようにあっという間に戻って来た。
「はい、これ。
サイズは大丈夫だと思うけど、何かあったら言ってね。」
優しく微笑むリナリーに、こちらも温かい気持ちになる。
「ありがとう!」
手渡された服に目を落とし、露出度の高さに震え上がった。
リナリーは黒い靴で太ももまで覆われる前提だし、美脚なので大丈夫だが、一般人である私にホットパンツは着こなせない。
しかし、厚意で貸してもらっている手前、恥ずかしいとも言えない。
一時の恥と気合を入れて、着替えるために自室へ向かった。
訓練場へ戻ると、既にラビとブックマンも集まっていた。
ラビはどうやらリナリーがストライクしたらしく、うねうねしていた。
入団した日から見ていたくせに、白々しいものだ。
リナリーはこちらに気付くと、戸惑いの表情からパッと笑顔になった。
「よかった!やっぱり梓はアジアの服が似合うわね。
頼めば、きっと日本風の服も取り寄せてくれるはずよ。」
「ほんとう!?ぜひおねがいしたいわ!」
この服が似合っているかどうかはともかく、少しでも故郷を感じられる服が取り寄せられるのはありがたい。
「じゃああとで一緒に頼みに行きましょ!」
「うん!」
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