26

合流して1週間。
私たちはスペイン北東部、バルセロナに来ていた。

しかし、街へ入って早々にアクマの襲撃を受け、戦闘を繰り返す内に他のメンバーと逸れてしまう。
今も周囲を大量のアクマに囲まれていた。

『【ザーー】はら【ザザッ】たな…』

ゴーレムがノイズ混じりにデイシャの声を伝える。

『あ?何言ってやがる』

『音 悪いな デイシャ』

『ったくもー 最近調子悪ィんじゃん
オレの無線ゴーレム』

ぽんぽんと気心知れた様子で会話が流れてくる。
デイシャの声だけは相変わらずノイズがかかっていた。

『お前ら今 どこにいる?』

性格上、こんな時は神田さんがリーダーシップを執るのがお決まりになっている。

『デケェ変な塔から東に3キロくらい?』

『私は西5キロといったところだろう』

「私は北1キロ、ですかね。」

『ちっ 俺は南だ』

見事に四方に分断されてしまっているようだ。
北東から街に入ったのに、何故南や西にいるのだろう。
相変わらず神田さんもマリも運動量がすごい。一生追いつける気がしない。

『長い夜になりそうじゃん こりゃ…』

『アクマたちの機械音(ノイズ)があちこちで聞こえる…
奴らの密集区に入ってしまったな』

そう、最初に襲ってきたのは密集するアクマの外れの方にいた一団だったらしく、変な塔ことサグラダ・ファミリアに近付くほどにアクマは増えていた。

『集まろう
10キロ圏内ならゴーレム同士で居場所が辿れる』

『じゃあオイラと神田と梓でマリのおっさんとこ集合ってことで』

逸れた時はマリを目印にするのも、もはや定番となっていた。

『時間は?』

『夜明けまでだ』

「了解」

"その時"が、近付く。

だが、私にできることは目の前のアクマを倒すことだけだ。

右前方のアクマに糸を絡めて引き倒し、1体。
その残骸を足場に、近寄って来たアクマに糸を巻き付けた足で蹴り込みもう1体。
体の流れを利用して同じく糸を巻き付けた腕でもう1体を殴り壊す。
集まってきたアクマの1体に糸を括り付け、遠心力を使って一帯のアクマにイノセンスを巻き付けた脚を打ち込む。これで3体。

神田さんたちほど強くない私は、自分の身を守ることで精一杯だった。

『【ザーーザザッ】ろす【ザザザー】って
【ピーガガッ】楽し【ガガッザーーー】』

『あ?何か言ったか?』

『デイシャ?』

泣くな。
泣くな。
イェーガー元帥も、デイシャも。これから先の大勢も。
見殺しにした私に、泣く資格はない。

戦え。
戦え。
1体でも多く壊せ。
1人でも多くの魂を救え。

私はきっと天国には行けないから。
先に逝った彼らに、すまなかったと。
業は私が背負っていくと、伝えておくれ。




神田さんとマリに合流できたのは、夜が明ける少し前のことだった。
射し込んだ朝日が影を作る頃、そこには3人だけが立っていた。

「デイシャのゴーレムだ……」





咎人




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