24

黒の教団に入団して1ヶ月ほど。
いくつか任務もこなして、少しずつ慣れてきたところだ。

コムイさんに呼ばれて科学班フロアで待機していると、見知らぬ女性が風と共にふわりと飛び込んできた。

「研究室(ラボ)からのお届け物でーす!」

「梓!いつもありがとう。」

アジア風の服にインディアンの靴を履き、腰には真っ黒な縄を巻いている。
持ってきた荷物をジョニーに渡した彼女と、ふと目が合った。

「もしかして、あなたがアレン?」

「あっ、はい。アレン・ウォーカーです。」

近付いてきた彼女は、にっこり笑って手を差し出した。

「エクソシストの山城梓っていいます。梓がファーストネーム。
よろしくね。」

「よろしく、梓。」

任務で負った傷だろうか、頬に貼られたガーゼが痛々しい。

「アレンはここで何してるの?」

梓はこてりと首を傾げた。
コムイさんに呼ばれて来たのだが、会議中らしく待ちぼうけを食らっていると説明すると、良いことを思いついたとばかりにぱんと手を叩き、顔を輝かせた。

「待ってる間、一緒に散歩でもしない?」

断る理由もないので頷くと、あっと言う間に膝裏と背中に腕がまわり、ぐいっと抱き上げられ塔内の吹き抜けに躍り出ていた。
ブランコのようにぶんぶんと揺れながら吹き抜けを上へ上へと進んでいく。

「あの、散歩じゃなかったんですか!?」

慌てて声を上げると、彼女は楽しそうに笑って言った。

「空中散歩だよ!」

「せめてお姫様抱っこはやめてもらえませんか!?」

自分より小柄な女性に抱かれる居た堪れなさに、思わず叫んでしまう。

「だって、おんぶじゃいつもと重心が変わっちゃうし、前が見えないと困るでしょ?
って考えたら、これがベストなの!ごめんね?」

そう言われれば抵抗することもできず、重いだろうと心配してもエクソシストだから鍛えていると返されてしまう。

「それならいいんですが……これ、イノセンスですか?」

「そう!私の対アクマ武器、墓造は糸状なのが特徴なんだ。」

腰に巻いてある黒い縄が対アクマ武器らしい。
その縄から微かに光る糸が上へと延びて、僕たちを引っ張りあげていた。
当初は蜘蛛の巣のような罠でアクマを倒していたが、応用として空中ブランコの要領で移動に使うのを思いついたらしい。

「それで練習がてら、教団内のお届け物も手伝ってるんだ。」

「糸状……いろいろな対アクマ武器があるんですね。教団に入る前は師匠と自分のしか知らなかったから、興味深いです。」

彼女の縄はもちろん、リナリーの黒い靴が対アクマ武器だなんて、発動するまで全く気づかなかった。

「クロス元帥、だっけ。どんな人?」

「悪魔です。」

キッパリと答えると、梓はクスクス笑った。

「仲良しなんだね。」

「仲良し、とは違うと思いますけど……」

「マンツーマンでみっちり教えてもらったんでしょう?羨ましいな。」

梓は適合者だとわかってすぐに教団にやって来たそうだ。
基礎体力の強化やシンクロ率の上げ方を習ったあとは、手隙のエクソシストと手合わせをして技を磨いていったらしい。

「そういう人もいるんですね……でも僕もそんなに教えてもらったって感じはしないですよ。師匠は放任主義だったので。」

「そうなの?師弟にもいろいろあるのね。
っと、そろそろ戻ろうか。腕もしんどくなってきたし!」

「あっすみません、支えてもらってしまって……」

「私が誘ったんだから気にしないで!」

からりと笑った梓は、ひょいひょいと糸を操ってみるみるうちに教団内部を下っていく。

「行きとは全然違うところを通るんですね。」

「そういう訓練だからね。」

何事もないように言うが、かなり難しいことなのだろう。日々の積み重ねが伺えた。

あっという間に科学班フロアに戻ると、僕を優しく降ろす。
そしてすぐに吹き抜けにとんぼ返りして、手伝いの続きに戻っていった。

「僕も何か手伝った方がいいんでしょうか…」





ブランコガール





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