23



自室でじじいに渡された資料を読んでいると、背後に誰かが座る気配を感じた。
触れそうで触れない絶妙な距離を保ち、重厚な本をめくる音がする。

きっと梓だろう。
任務から帰ってきたらしい。
教えた事は柔軟に吸収し、教えていない事には耳目を塞ぐ。
そんな彼女の接し方は、おれらにとってすごく有難くて、居心地が良かった。





どれくらい経っただろうか。
彼女が来た時に見ていた資料は頭に入れ終えて、次の資料に目を通していたころ。
背中に軽い衝撃と、少しの重みが掛かる。

「 ねえ、ラビー?」

首の後ろに頭をこつんと当てて、緩みきった声がした。

「…………んあ?」

資料から目を離すと、横から古びた本が差し出された。

「ここの、『古ノ文ニ拠レハ、彼者其地至テ――』なんとかを『鬻キ』のとこ、これ何?」

重いのか、腕が震えている。
揺れて読みにくいので本を支えてやると、そのまま脱力して布団に着地した。
俺に持たせるな、という意味を込めて軽く叩くと、不満げな声があがった。
無視して該当箇所を探している内に、彼女は俺の正面にのたのた回り込んで、本を持ち直す。

「……ああ、ここか。これは――

って、梓。これ……?」

教えてやろうとして、言葉が止まる。
この文には見覚えがあった。
本自体は教団に入ってから新たに入手したものだろうから、俺が読んだものとは細部が異なるが、過去に俺も読まされた事がある。
確か、内容はわりと機密性の高いもののはずだ。

思わず彼女を見つめると、ついと視線を遠くへやる。
彼女も、薄々勘付いてはいたらしい。
乾いた微笑みからは、感情は読み取れなかった。

「なんかねー。最近、ブックマンは本気なんじゃないかなって思うよ。」

一瞬何の事かと思ったが、すぐに"次期ブックマンの補佐"という入団時の(たぶん)建前のことだと気付く。
おれはじじいにはぐらかされたし、この言い様じゃあ、梓も詳しくは聞いていないんだろう。
だが、こんな本まで読ませているということは、本当に"そういうつもり"なのかもしれない。

「梓はそれでいいんか?」

箱入りな梓だけど、結構芯が強くて強かなのも知ってる。
飲み込みが早くて、適応力もある。
記憶力はまあ、流石に凡人の域を出ないが、それは"補佐"である以上そこまで求められていないんだろう。
彼女なら、流浪生活にも耐えられるだろうとは思う。
それでも、問わずにはいられなかった。

ブックマンてのは思いの外、しんどい。


「もちろん。光栄だと思うよ。」

しっかりと目を合わせて言い切ってから、すぐに目を逸らす。
彼女の癖だ。
こういう時は、本心からそう思っているのだ、と言っていたのは、彼女の親友だったか。


この二年で、梓は随分変わった。
まだまだ発音が甘いところもあるけど、充分通じるくらいに英語も上手くなったし、何より自分から人に話し掛けるようになった。
それに、見違えるように綺麗になった。
最初の俺の見込みは間違ってなかった訳だ。

男だけの道行にカワイイ女の子が加わるとなれば、華があっていいかもしれない。







内緒話





*prev | next#

-back-



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -