もしもブックマンが死んだら



ブックマンが、死んだ。



ごく簡素に執り行われた葬儀も終わり、葬儀場には静寂が訪れる。

喪主を務めた青年と、その補佐の少女が、肩を寄せ合って隅の花壇に腰掛けていた。
互いにもたれ掛かる二人の両の目からは、絶え間なく涙が流れ続けている。


「……先代は、貴方のことを褒めていたよ。
自分があの年の頃は、もっと未熟だった、と。」

少女が、ぽつりと零した。
聞いているのかいないのか、青年は曖昧に首を揺すった。




再び、沈黙が訪れる。
再度破ったのもまた、少女であった。

「これから、どうするの?」

なんの感情も感じられない、平坦な声だった。

青年は、宙を見上げて問いかける。

「……お前は、どうするんさ。」

少女は目を伏せ、青年の腕を取った。

「私は、貴方について行くよ。」

青年の目が開かれて、ほたりと雫が膝に落ちる。

「でも、お前は……」

少女を覗き込み、言いかけた青年を制するように、目を合わせ、少女は握った腕に力を込めた。

「"落とし子"なんて、関係ない。
もし私に何か役割があるのなら、どこにいたって、なるようになるよ。
それが、運命ってものでしょう。」

青年をしっかりと見つめるその瞳は、濡れながらも強く輝いていた。

「私はずっと、貴方と共にいる。
それが、先代が私にくれた居場所だから。

貴方は、一人じゃないよ。」

やんわり微笑む少女の目からは、透明な雫が溢れ続ける。

青年はひとつ頷いて、また宙を見上げた。


二人の手は、しっかりと握られている。

「……おれは、もうしばらくここにいようかと思ってる。」

少女は瞼をおろして、うん、と相槌を打つ。

「きっと、この戦争は今が佳境さ。
もうすぐ、終わる。」

また一つ。少女の相槌が、青年の背中を押す。

「じじぃは怒るかもしれねぇけど。
この戦争の終わりを記録しねぇと、ブックマンの名が廃るよな。」

青年の瞳に、光が宿っていく。
少女は、握っていた手を、両手で包み込んだ。


「貴方の好きにすればいいわ。
私は、いつだって貴方の味方だから。

ねえ、ブックマン。」







ブックマンが生まれる日





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