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ぴくりとも動かない己の右足を見て、まずったな、と思った。

今日、新人のエクソシストが入団したらしい。
名はアレン・ウォーカー。

彼の少年の入団という記念すべき瞬間に私が何をしていたかというと、ベッドに横たわってガチガチに固定された足を揺すっていた。

もちろん、好き好んでこんな状況にいるわけではない。
先週の任務でエクソシストの戦闘に巻き込まれ、倒壊した石柱の下敷きになったのだ。
普段なら避けられない早さじゃなかった。その直前に既に足を挫いていて、動けなかったのだ。
その時の痛みと言ったら、雄叫びの一つや二つは上げたいところだった。

大腿骨が一部粉砕しているらしく、医者の見立てでは全治三ヶ月程だと言う。
何かと危険に晒され生傷の多い職場ではあるが、ここまで酷い怪我は初めてだった。

これは、大事なところ全部見逃す気配がする。

正直、めちゃくちゃ悔しい。
だがまあ、石柱を壊したエクソシストを恨む気はない。
戦闘が始まっても退避しなかった私に落ち度があった。
常々梓から言われていた事だ。
私は少し、出しゃばりすぎるところがある。
直すつもりはないが、反省はしておこう。

残念ながら神田とアレンの初任務には同行できないだろう。
コムリンU騒動に巻き込まれないようにだけ気を付けよう。







部屋で一人大人しくしていると、先日の梓の言葉が頭を巡る。


「私は、介入しない事にしたよ。」


意外だった。
梓は正義感が強くて、好き嫌いこそ激しいものの、性善説を本気で信じているような、困っている人を放っておけないような人間だ。
これから"死ぬ"はずのエクソシストや探索部隊の中には何度か一緒に任務に就いた人もいるし、彼女なら全員とまでは無理でも、出来る限り助けようとするものだと思っていた。
もちろん、私もそれに協力するつもりでいた。

さて、一人になったが、どうするか。
まず、イエーガー元帥を助けるのは、時期的にも不可能と見ていいだろう。
それまでに怪我が完治するとは思えない。
申し訳ないが、元帥には犠牲になっていただこう。


そうして、一人一人考えて――





私には、何も出来ないと悟った。







力を求めた子羊





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