19


おれと梓の関係は、ちょっと面倒くさい。


ある日空から落っこちてきた彼女は、行き先がないってんで、おれらの記録する集落に引き取られた。
最初の印象は、
(あと三年くらいしたらイイ女になりそうかな。)
だった。
まだまだ未熟な女の子。

その時点では一応集落の拾い子だったはずなんだが、じじいは何故だか妙に彼女の世話を焼いた。
彼女も彼女で、ある程度言葉が通じるおれらを頼って、ひよこのように後を付いてきた。
どこへ行っても余所者、新参者だったおれにとって、頼られるっていうのはあまりない経験で。
ちっとは、ぐらっと来た部分はあったかもしれない。



夜が開ける少し前のことだったと思う。
そう遠くない銃声に、おれとじじいは飛び起きた。
何が起きてるのかはわからなかったが、とりあえず宿にしていたテントから出て、銃声と逆の方へ走った。
情けない話だが、この時のおれたちには銃と戦う力はなかったし、歴史の記録者としては生き残るのが最優先だった。

高台に登って振り返った時、おれは今まで見たことも無い光景に思わず言葉が出なかった。
銃口が突出した球体が、ざっと見て100体。
宙に浮いて、集落に雨霰とミサイルを撃ち込んでいる。
にも関わらず、血が飛び散ることはなかった。
石になって、砕け散っていたからだ。

異様な光景だった。

――なんだ、あの球体は?
――なんだ、あのミサイルは?

ただひとつ、あの集落にいた者は誰一人として助からないだろう、ということだけは、確かだった。


"化物"に蹂躙されていく集落をひたすら記録していると、背後から穏やかな声がした。

「メーカー・オブ・エデン……」

全体的にモッサリとした、壮年の男性だった。
モッサリしたオッサンが何やら手元の棒のようなものを動かすと、"化物"が次々と消えていく。

直後、集落の中心部にぶわりと光が見えた。
最初は細かく動いていた光は、やがてすっと地面へ落ち――周りの"化物"が、溶けていく。

「おや?――新人さんかな。」

どこか間抜けなモッサリしたオッサンの声を聞きながら、おれの目は光の元に釘付けになっていた。

――まさか、そんな。
あんな状況で、生きているはずがない。

力尽きた様に地に崩れ落ち、何者かに刃物を首に突き付けられているのは、間違いなく梓だった。









化物が全て地に落ちた後、おれたちはオッサンに連れられて彼女たちの方へ向かう。
彼女に刃物を突き付けていた男と、このオッサンは知り合いらしい。
梓に近付くほど、おれは冷静になっていった。

アイツはおれを信頼してる。ここで心配した素振りを見せないと、きっと不信感を抱かれるだろう。

おれは取り乱した風を装って、彼女に駆け寄った。
梓は疲労を顔に浮かべてはいたものの目立った傷はなく、ただ呆然としていた。

集落の全滅を聞いても、いまいちぴんとこないのか、ぼんやりしたままだった。
一緒に過ごしていて薄々気付いてはいたが、この子は戦争を知らないんだろう。
思えば、最初に現れた時も、こんな様子だった。
だが、この一月で集落の暮らしに慣れていた辺り、 適応力はそこそこあるらしい。
きっと今回も、ゆっくりと受入れていくんだろうと思った。

オッサンと刃物を持った男は、黒の教団のエクソシストなのだそうだ。
エクソシストはイノセンスという不思議な力を持った物に選ばれた戦士で、梓はそれに選ばれたんだとか。
オッサンが持っていたイノセンスの中に、おれとじじいに適合するものも見つかった。

黒の教団がちょうど次の記録地の候補だったということで、おれたちもエクソシストとして教団に所属することになるらしい。

おれは初めて、"戦士"になった。








じじいは、梓を次期ブックマン補佐――つまり、おれの補佐として教団に紹介した。

聞けば、この子と、もう一人。
教団に所属する女の子が"空の落とし子"とかいう稀に現れる存在なんだとか。
そんな存在をブックマンの一族に組み込もうなんて、じじいは何を考えているんだか。



教団に入ってからの梓は、どことなく楽しそうだった。
相変わらず何かとおれの後をついて回るが、教団には、旧知の仲だという凛もいる。
それぞれ任務があるからなかなか会えないみたいだけど、会えた時には楽しそうに話しているのを何度か見掛けた。
教団内でも、彼女たちの仲の良さは知られたところだ。
おれたちに会う前の、おれの知らない時を、彼女たちは二人だけで共有していた。
益々、彼女をブックマンの補佐にするのは、彼女にとっても嬉しくないことなんじゃないかと思うようになった。




ずっと付き合っててわかったことだけど、梓は所謂"箱入り"ってやつらしい。
大事に大事に育てられて来たのがよくわかる。
戦士としてもやっていけるかどうか不安なのに、戦場を渡りくなんて、無理だろう。
そう言ったら、じじいはふんと鼻で笑った。






おれはブックマンJr.
彼女は空の落とし子で、ブックマンJr.の補佐。

おれは彼女を認めてないけど、彼女はおれを信頼しているらしい。


ちぐはぐ

絡まって解けない
表と裏と







*prev | next#

-back-



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -