日が傾き、もうすぐ暮れようかという頃。
若覚が起きたとの知らせが入った。
身嗜みを整え出てきたのは、笑みを湛えた僧侶だった。
なんとなく、いけ好かない笑顔だと思った。
胡散臭い訳ではない。むしろ、本心からの笑顔であろうことはよくわかる。
だからこそ、気に食わない。
きっとその盲た目に、この世の美しいものしか映して来なかったのだろう。
汚いものなど知らぬような微笑みに、どうしようもなく苛ついた。
「若覚殿ですね。我々は故あって、各地の様々な奇怪を調査し、解決することを生業としています。
お話を聞かせていただけませんか。」
黒の教団だのアクマだのは、特に仏門の人間相手には、無闇に口にしない方が良い。
アジア支部からの、忠告だった。
「奇怪……ですか。
私はこの通り、盲ておりますから、語れることも多くはないと存じます。
それでよろしければ、もちろん、お話しさせていただきますよ。」
「結局、住職から聞いた以上のことはわからなかったよ。」
はあ、と、ため息が溢れた。
住職の言う通り、若覚は「御霊を安らげている。」の一点張り。
当然、その領域に私達がついて行くのにも断固拒否の姿勢だった。
「坊さんが何言ってようと知るか。尾行するぞ。」
神田は砂利を蹴飛ばしながら、舌打ちをする。
この村のじとりとした独特の空気に、慣れない言語、話の通じない僧侶。
神田のストレスも溜まってきているらしい。
性急かもしれないが、今夜カタを付けるつもりでいた方が良さそうだ。
となると、心配なのは梓だ。
そもそも体力がない上に、合流時点で満身創痍。
そのまま村まで来て、これから尾行で神経は更にすり減らされる。
下手をすれば、夜通しアクマ退治なんて可能性もあった。
「……梓、頑張れる?」
「もんだいないよ。」
間髪入れず、梓はそう言った。
"嘗めるな"と、いつもよりも鋭い瞳が訴えていた。
辺りがとっぷりと暮れ、月が地面を照らす頃、お堂から大きなものを抱えた影が現れた。
互いの姿も朧気な中、神田と梓は距離を空けてその影を追う。
アクマと戦う術を持たない私は、結界装置を抱え、二人の更に後ろを歩いた。
やがて影は墓地に差し掛かる。
そこには、夥しい数の生ける機械たちが集まっていた。