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じっとりとした空気、舐めるような視線。
生気の感じられない集落に、ゾンビのように蠢く人々。
そこら中から呻き声が聞こえ、そのなかにしばしば狂ったような叫び声が混じる。

まさに、地獄の有様だった。



「……この辺りは、阿芙蓉が流行っているんです。」

連れの青年の言葉に、村の人々がぴくりと反応した。
わらわらと、湧き出るように、痩せ細り死相を浮かべた男女が飛び出してくる。
全てが老人に見えるが、きっと、もっと若い人間も居たはずだ。

「私らは持ってないよ。他を当たりな。」

這い寄ってくる枯れた男の手を払って、踵を返す。

この様子じゃあ、誰に聞いたってロクな情報は得られないだろう。
少し離れたところから調べた方が良さそうだ。







とあるアジアの国で、私は奇怪の調査に携わっていた。
わざわざこんな辺境まで駆り出され、面倒なことだが。
西洋人では、いろいろとやりにくいところがあるらしい。


来てみて、すぐに理由は察した。
阿芙蓉――現代で言うところの、阿片だ。

西洋人は、かなり悪どい商売をして、この国の人々に阿片を売り付けていた。
阿片は人の心と身体を蝕む。
結果、荒廃した村々が、一帯に広がっていた。


そんなゾンビ集落の中に一つ、不思議な村があった。
夜毎琵琶の音が響き、猛る村人を慰めるのだと言う。


「で、それがどう奇怪なの?
音楽が人を安らかにする――なんて、よくある話でしょ。」

一先ず彼の集落群からほど近い町の喫茶店に場所を移して、連れの話を聞くことにする。
アジア支部の調査班に所属し、以前からこの一帯を調査していたという青年は、眉を寄せ首を傾げながら語り始めた。

「それが……ほんの一週間前までは、その村はアクマの巣窟だと考えられていたんです。」

一週間前というと、ちょうど私に指令が入った頃だろうか。
なるほど、当初はアクマ討伐の事前調査という話だったわけだ。

「近隣の村の行方不明者の数や、通りがかった旅人の目撃した村の様子から、村人の殆どがアクマに違いない、とのことで。」

「それはまた……大規模な。」

村全体とは、なかなかない規模だ。
むしろ何がどうしてそんな村が出来てしまうのか。
いや、それは気にしないでおこう。

エクソシストが、アクマを全て壊す。
それさえできればそれでいいってのが、この組織の方針だ。

「ええ。それが、数日前から、ぱたりと行方不明者が出なくなったんです。
調べてみたら、ちょうどその頃から毎夜琵琶の音が聞こえるようになっていたことが判って。」

アクマの殺戮衝動を抑える琵琶、か。
イノセンスか、それともLv.2か。

と、いうよりも。
つまり、その前は毎日のように行方不明者が出ていたということか。
よくその状況で呑気に調査していられたものだ。
いち早くエクソシストの出動要請をするべきだろう。

支部の調査班は本部の探索部隊程専門的ではなく、仕事に慣れていないとは聞いていたが。
あまりにもお粗末な対応に、頭を抱えたくなった。

「本部にエクソシストの出動を要請します。電話はある?」

「あっ、はい!
……ご主人、電話を貸してくれ!」

どうにも、わたわたばたばたと、そそっかしい男だ。
こんなのとペアで任務とか、嫌な予感しかしない。


はやく。
エクソシスト、誰でもいいから。

はやく来てくれ。







何をか泣しませむ


東の果ての

生ける墓場にて







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