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対アクマ武器も完成して、私は日夜鍛錬に励んでいた。

エクソシストの特訓というのは非常に地味だ。何事にも近道はない、ということだろう。

まずは、イノセンスとのシンクロ率を上げること。自分のイノセンスに何ができるのか、限界はどこまでか。
そういったことを試して試して、少しずつシンクロ率が上がっていく。
私は実戦で使ったことがあったから、その点はラビやブックマンよりも随分早く合格ラインまで達した。

私が手間取ったのは、体力面だ。
戦場を渡り歩いてきたブックマンたちに比べ、圧倒的に貧弱だった私はひたすら走り込みと筋力トレーニングを課されていた。
毎晩疲労で倒れ込むように眠りに落ち、朝になればキリキリ悲鳴をあげる筋肉を無理矢理動かして、また走り回る。

そんな毎日だったが、朝の黙祷は欠かさず捧げていた。
あの村の人々が、安らかに眠れますように。
感謝と祈りを込める、大切な時間。

朝起きて、まず黙祷を捧げる。
そこから、エクソシストたる私の一日は始まった。







昼食時、白衣を纏った小柄な青年が駆け寄ってきた。

「梓!この後、少しいいかな。」

「?はい、たんれんまでなら。」

メガネがキラリと光る。
ジョニーは、企んだような微笑みを浮かべて、じゃあ食べ終わったら室長室ね!と言ってまた駆けて戻って行った。

楽しそう、だったな。


目標があるというのは、いいことだ。
あの集落にいた頃は特にすることもなく塞ぎ込みがちだった私も、ここでははやく一人前のエクソシストになる、という使命がある。
それだけで、なんとなく日常に張りが出て、やる気が溢れてくる。
その為の厳しい鍛錬も、心にぽかりと空いた穴から目を逸らすには、絶好の刺激だった。

ラビもいつも疲れたと言ってはうんざりしたような顔をしているけれど、やらなきゃいけないことならと真剣に取り組んでいるのはわかる。
それに、身体を動かすこと自体は楽しいみたいだ。
ラビは読書が好きだと言うけれど、同じくらい、動き回るのも好きみたいだから。

早くも教団に馴染むラビや、室長たち幹部とよく難しそうな話をしているブックマンとは違って、私はどうにも浮いてしまっていた。
言語の壁は厚い。が、もちろん、それだけでは無い。


正直なところ、私は身の置き場に困っていた。
ブックマンは私を次期ブックマンの補佐と言っていた。
それは本気なのか、建前なのか。
私は何も聞いていない。

空の落とし子が黒白を廻すと言われているってことは、教団に居続けないといけないのではないか、じゃあ建前なのかもしれない。
でも黒白を廻すって何だかよくわからないし、ブックマンがわざわざ私を補佐として入団させたのは何か他に意図があるのかも知れない。

思考は堂々巡りで、決着が着かない。
だから、私は考えなくて済むように、ひたすら鍛錬に打ち込んだ。

そもそも人見知りだから、その方が気持ちは楽だ。
凛は探索部隊として外に出ている事が多い。
これ幸いと、私は碌に友人も作らずに鍛錬場と自室を往復している。






昼食を終えて室長室へ向かうと、得意気な顔をした科学班の面々の前に、ラビとブックマンが座っていた。

「さ、梓もここに座って!」

ぽんぽんと叩いて勧められた椅子に座ると、ジャジャーンと言ってジョニーとタップが3つの包みを持ってきた。

「3人の、団服が出来ましたー!」

おおっと、隣の二人から声が上がる。
そう言えば、先日採寸してもらっていた。

「3人ともそろそろ任務に出れそうって聞いたからね。
少し早いけど、僕らからのプレゼントだよ。」

コーヒー片手ににっこり笑う室長の目の下には、薄っすらとくまができていた。

「はい、梓のはこれ。
寒がりだってラビが言ってたから、少し厚手の生地で作ってるよ。
コートは踝まであるし、下もズボンだから、暖かいと思う!」

ジョニーから手渡された包みは、柔らかく、ずっしりとしていた。

「何回出掛けても、梓がちゃんと帰ってこれますように。
っていう、お守りだよ。」

少し頬を染めて、満面の笑みで。
私は何だか、泣きたくなった。





いつか、ここを出なければいけなくなるかもしれない。
いや、きっといつかはそうなるんだろう。
でも、それまでは。
この、真っ直ぐで曇りのない信頼に、出来る限りの誠意と力で、応えたい。
そう、思った。


この先どうなろうとも、この団服を着ている間だけは。
教団のエクソシストとして、力を尽くそう。

それが、私の道だ。







一道を往く

少女は自ら

道を選んだ







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