新人エクソシスト、しかも同時に3人も。
好奇心を擽られた私は、こっそり地下水路の船着場まで来ていた。
神田が知っているということは、教団の人間が引率してくるはず。
となれば、確実にここを使うはずだ。
私は物陰に身を潜めて、一行を待った。
暫く待っていると、探索部隊隊員が数名集まってきた。迎えの担当らしい。
幸い、探索部隊の隊服は着込んで来ている。
タイミングを見て紛れ込めそうだ。
とぷりとぷりと櫂が水を分ける音の後、2艇の小舟が姿を現した。
先頭の舟が近付き、灯でぼんやりと顔が見えるようになった時、私は思わずあっと声をあげそうになった。
舟にいたのは、探索部隊一名と、ブックマン、ラビの三名だった。
新しいエクソシストとは、彼らのことだったのか。
なるほど、同時に見付かってもおかしくない組合せだ。
だが、今回見付かった適合者は、三人だという。
原作でこの辺りのシーンも少し見たが、他に適合者がいたような描写はなかったはずだ。
考え込む間に、ブックマンたちの舟が到着し、探索部隊の意識がそちらへ傾く。
私は物陰から抜け出して、何食わぬ顔で彼らの中に入り込んだ。
言葉少なに、探索部隊たちは彼らを室長の元へ連れて行く。
後着の舟に乗っていたのは、探索部隊一名と、ティエドール元帥、そして――
(梓……!?)
仮にも此方は隠れている身だ。
流石にその場で問い質すことはおろか、声を掛けることすら、できる訳がなかった。
彼女にも顔を見られぬ様に、細心の注意を払って探索部隊に混じる。
だが、心の中は大混乱だった。
何がどうなって私が"ここ"に来たのかは、わからない。
しかし、"此方"へ来る直前、確かに私と彼女は一緒にいた。私が来ているなら、彼女も来ていてもおかしくないはずだ。
考えが足りなかったか。
まだ私一人なら、いろいろと誤魔化しも効いた。
だが、彼女も来ているとなれば、話が違ってくる。
何より、
(梓が、エクソシスト……!)
それが、一番の懸念であった。
彼女は気は強いが、あくまでも一般人で、戦いなんかとは無縁だったはずだ。性格も、戦闘向きとは思えない。
彼女に、エクソシストが務まるのだろうか。
もし、もしも。彼女が苦しそうなら。
(私が、連れて逃げる……!)
密かに決意を固めて、足を進めた。
迎えに出向いたコムイと、ブックマンが何やら言葉を交わしている。
こういう時、なるべく会話は耳に入れないのが探索部隊の嗜み、らしい。
私は、階下を覗き込むラビと、それを落ち込んだ様子で眺める梓を観察していた。
見知らぬ人間に取り囲まれたこの状況で、怯えた素振りの一つもない。
表情こそ晴れないが、ここまで落ち着いているのは、この中に信頼できる人間がいるからだろう。
それはきっと、視線の先の少年。
「ラビ!梓!」
ブックマンの声に、ばっと顔を上げた梓が、何を思ったのか私に突っ込んできた。
咄嗟の事に避け切れず、二人して倒れ込む。
「だ、大丈夫ですか、エクソシスト様……」
「……あ、ご、ごめんなさい、あの、」
羞恥に赤く染められた顔が、驚愕の色に変わっていく。
「凛……?」
ああ、もう。これだから。