05



時刻はちょうどお昼時。
食堂には団員の多くが集まり、戦争中であることを忘れてしまいそうなほど賑やかだ。
初めはおっかなびっくりだったが、この騒がしさにもだいぶ慣れた。

今日はいつもよりも団員が少なく、割と静かに昼食を頂けそうだ。
どこかやつれた食堂に首を傾げながら、なんとなく決まってきた定位置に腰掛ける。

「……で、今日も今日とて神田は蕎麦っすか。」
「だからなんだ。」
正面に座り蕎麦を啜る美形くんを呆れ顔で見やる。
入団以来、こいつとは探索部隊とエクソシストという部署の枠を超えて共に活動することが多い。
拾ってもらったし、同じ日系人だし。親しみもあってなにかと引っ付いていたのは私の方だが、神田も特に嫌がりもせず受け入れてくれていた。

そう、私は探索部隊に入隊した。現在教団が保有する全てのイノセンスを管理するというへブラスカの所にも顔を見せたのだが、結局、適合するイノセンスは見つからなかった。まあ、世の中そう上手くは行かないものだ。

「バランス悪いよ。育ち盛りなんだから肉食え、肉。」「うるせェ。」
無愛想で不器用、でもなんだかんだで真っ直ぐなこいつは至極分かりやすい。

探索部隊には、仕事内容の関係上、アクマ被害者が割合多く所属していた。アクマを倒したいが適合はできなかった、ならば探索部隊として現場で役に立ちたい、と。まあ、私がでっち上げたものと同じルートだ。だからこそ、やりにくさがあった。彼らは本当にアクマを憎んでいるが、私はそうではない。そこの矛盾から綻びが生まれることを避けるため、探索部隊の面々とは距離を置きたい。というのが、私が神田にやたらと絡む一番の理由だった。
幸い、かつて似たような友人がいた為、扱いには困っていない。分かりやすくて、いい奴だ。

物思いに耽っていると、突然物騒な音がした。
硬い何かを砕くような、例えるならレンガ造りの壁をぶち破るような破壊音だ。
というか、まさにそれだった。

「……」
「おぉー。」
目の前には、食堂の壁の残骸とその中に立つロボット――白いボディにベレー帽をちょこんと乗せ、胸にはでかでかとKの文字が書かれている。たぶん、コムリンだ。
壁をぶち抜いて来た辺りからして、暴走しているらしい。
最早ただの危険な破壊兵器と化している。

コムリンも確かに危険極まりないのだが、輪を掛けてアブナイやつがもう1人。
背後に鬼の幻影を背負って、既に刀を抜いていた。
コムリンは見事に俺と神田の居たテーブルを直撃。
当然、そこにあった料理たちは今やめでたく瓦礫の仲間入りを果たしている。
「またか……!」
腹の底から絞り出したような声と共に、禍々しい殺気が洩れてきた。
「またって、前にもあったん?」
「さっき、俺の蕎麦を食いやがった!」
あぁ、それで食堂が何時もよりボロボロだったわけか。
「今度はぶちまけるとは、良い度胸だな……?」
「おーい、落ち着け神田ぁー。って、聞いちゃいないな。」
ていうか、蕎麦食っちゃったロボットをこいつは野放しにした訳か。
馬鹿だろ、いつも思ってたけどやっぱ馬鹿だろこいつ。
「殺す!六幻抜刀!!」
初めから生きてねーよ。
私のツッコミは、コムリンのそれより何倍も凄みのある破壊音によって宙に消えた。

突然の事態に、逃げ惑う隊員たち。
探索部隊の1人が、飛んでくる瓦礫を避けつつ此方に向かって叫ぶ。
「っおい、凛!アレどうにかしてくれ!」
……誰だっけ。
なんか見たことある気がするから、前に任務が一緒だったとか何とかだろうな、記憶にないけど。
「無理。てか、あーゆーのは好きなだけ暴れさせた方が良いんだよ。」
私は不干渉を決め込んで、そそくさとその場を後にした。
結局、怒り狂った神田の凶刃によりコムリンは呆気なく破壊され。
コムリン騒動による被害は意外にも食堂半壊だけで済んだ。
後に作られるであろうコムリンUより大分小型だったからかも知れない。
確か69くらいのサイズだった。
存在感と迷惑度は遜色ない大きさだが。

「ちくしょうバ神田め……ごめんねリナリー。手伝わせちゃって」
「良いのよ、任務も無かったから。」
そんなわけで、手の空いている団員総出で食堂の修復にあたっている。
殆どは人数が多く体力にも自信のある探索部隊だが、リナリーも室長補佐の仕事を中断して手伝ってくれている。

相変わらず、リナリーはいつ見ても可愛い。
しかも強くて優しいときた。
本物の天使だ。
実際目の前にすると、余りにも完璧で眩暈がする。
「こちらこそ、いつもごめんね。」
「ん、何が?」
「兄さんが神田とばっかり任務組んでて……」
さっきの訂正、女神だ。
女神がここにいらっしゃる。
申し訳なさそうな笑顔すら美しすぎてもはや芸術だ。
「全ッ然平気!慣れてるし、ああいうやつ。」
「そうなの?」
こてん、と首を傾げるリナリー。
あああ可愛いな、もう!
「うん。ぱっと見はそんなことないんだけどさーって、あれ?」
「うん?どうかした?」
周囲を見回して再度姿を探すが、やっぱりいない。
この惨事の元凶の一人。黒い髪をたなびかせた――


「……神田は?」







 《警報発令中》

廻る世界のその先に

光を見るか、闇を見るか







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