06



北米のある先住民の集落付近で、アクマが大量発生しているらしい。
その数、約200体。
探索部隊の調べではイノセンスらしき奇怪は確認されず、今回の任務は単純なアクマ討伐だと聞かされた。

探索部隊を伴わない、エクソシストの単独任務。
数が数だから、たまたま近くに滞在していた元帥も参加するらしい。

そのはずが、俺が現場に到着した時には既に何者かがアクマと交戦中だった。
事前の報告よりも圧倒的に数が少なくなっている。

様子を窺っていると、周りのアクマが次々と溶けていった。
見たことのない能力。
教団のエクソシストでないのは確実だった。

全てのアクマを壊し終えると、そいつは地面にへたり込む。
俺は素早く後ろを取ると、首に六幻を宛てた。

「何モンだ、テメェ。」
肩を跳ねさせ、ゆっくりと振り返ったのは、アジア系の女。
大きく見開いた目は、所在なさげに揺らいでいた。

「答えろ!テメェは何モンだ。」
再度問えば、視線を泳がせてからまた此方を見上げて答えた。
「山城梓、です。」
「……俺は神田だ。」

拙い発音で、英語に慣れていないのが分かった。
名前の響きからして、恐らく日本人だろう。

「ここで何してる。」
「え、と……」
これ以上英語で話すのは無理だと悟ったのか、身振り手振りと少ない単語で必死に表現している。
だがさっぱり解らない。
こいつも俺が解っていないのは分かるらしく、困惑と焦りの入り混じったなんとも情けない顔をしていた。

その後も何度か質問を変えたが、こいつが何を言いたいのか結局解らなかった。
だが、こちらの質問の意味は理解できるらしい。
聞いて解っても、質問に答えられないのでは意味がないが。

どうしたものかとアクマの攻撃で跡形も無くなった集落を見回すと、此方に近付いてくる集団が目に入った。

「おや。おーい、神田ぁー。」

ぶんぶんと腕を振っているのは、ティエドール元帥だ。
到着していたのか。
小さい爺さんと若い男を連れている。
元帥の声に目を向けた女が、前を歩く2人を見て表情を和らげた。
知り合いらしい。
あっちも女に気付いたのか、若い方が走ってきた。

「梓!大丈夫さ!?怪我とかしてない?」
男は視線を合わせるように背中を屈めて、こいつの肩を掴む。
「だいじょうぶ、です。ありがとう。」
へらりと笑った女からは、焦りの色は失せていた。
「えっと……だいじょうぶ、ですか?」
相変わらず拙い言葉だが、慣れているらしい。
男はすぐに口を割るように笑ってみせた。
「あぁ、俺らなら大丈夫さ!立てるか?」
「はい。」

女が立ち上がる頃には、元帥たちも近くまで来ていた。
「神田、適合者だよ。この2人とも。」
元帥が団服の裾を開くと、中からイノセンスが2つ飛び出し、爺さんと若い男の手の上でそれぞれ黒い針と槌に形を変えた。
若い方は大袈裟に騒いでいる。
同じ場所で同時に2人も適合者が見つかるなんて、普通ない。
運が良いのか、悪いのか。
などと考えていると、今度は少し離れた洞窟から一人でにずり出てきた鉱石が、女の足元でピタリと止まった。
独特の感覚が走り、元帥を見ると首を縦に振る。
イノセンスだ。

2つのイノセンスに引き付けられたのか。
いや、恐らくこの女が適合者なんだろう。
一度に3人の適合者が見つかった。
こんな事は前代未聞だ。
俺の知った事じゃないが、今の戦況は芳しくない。
だから教団にとっては喜ばしいことなんだろうが、どこか引っかかる。

俺が物思いに耽っている間に、爺さんと元帥で話が着いたらしい。
元々3人は連れらしく、滞在していた集落も壊滅した。
教団に入る他ない。

そもそもイノセンスに適合した時点で、それ以外の選択肢はないが。

「神田は先に戻って報告しておいてくれるかい。ご老体や女性を急かしたくないからね。」
「はい。」
正直3人も連れて行くのは面倒だから助かる。
特にこの若い男は如何にも面倒臭そうだ。

早く戻ろうと踵を返したところで、服を掴まれた。
手の先を辿ると、あの女がいた。
男に支えられて立っている。

「なんだよ。」
俺はいらつきを隠さずに思い切り睨みつけた。
何の用があるのか。
「あの……ありがとうございます。」
「はぁ?」
どう表現すべきか迷ったのか間を開けて発されたのは、感謝。
だが俺は六幻を突き付けたぐらいしかしていない。
こいつは何を言いたいんだ。
俺の明らかな疑問には気付かないのか、女は笑顔を作るとちいさく手を振った。
「またあいましょうね、」

何がしたいのか意味不明だったが、何となく毒気を抜かれたまま俺は帰路に着いた。







 悪態ドール!


環から外れた、

操り人形。







*prev | next#

-back-



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -