すべてを貴方へ贈ります。 2




結局店の奥にあった座り心地のよいソファーに一目惚れして買うことになった。
鳳も気に入ったようで、話し合いの結果支払いは折半。
本当は誕生日プレゼントとして鳳が全額払いたかったようだが、これから二人でこのソファーを何年も使っていくのだからと宍戸は鳳だけに負担させることはどうしてもしたくなかった。

「いい買い物したな」

「お店では二人並んで座るとか出来なかったから、早くあのソファーで宍戸さんと座りたいです」

「気にしないで一緒に座りゃよかったのに」

「だって一緒に住んでるとか店員にバレるかなって思ったら…」

「考えすぎ。なんかいつもと逆だな今日は。いつもは長太郎が考えなしに行動するのにな」

「そう言われてみれば…」

誕生日にいかに宍戸を不快にさせず楽しい一日にさせるか、鳳は考えすぎていつもより後手に回っていると宍戸は踏んでいる。
自惚れてもいいならそれはすごく愛されているんじゃないのかと、こんな昼時に思ってしまい宍戸は汗が吹き出た。

「な、なんか腹減ったな」

「もうお昼ですもんね」

鳳を横目で見てみると携帯電話を取り出してなにやら操作をしている様子で、うまく話を逸らせたと胸をなで下ろした。
そういえば去年も、一昨年も、そのもっと前も、俺の誕生日にはいつも長太郎からの愛情をこれでもかと感じていることを思い出す。
こんな道ばたで言うこともできないから、宍戸は心の中で、ありがとうと呟いた。

「宍戸さん、昼食も俺に任せてくれますか?」

「おう、何でもいいぜ」

「少し並ぶかもしれませんけど…。行きましょう」

鳳に連れられて一駅電車に乗り、そこから少し歩くと目の前に6人ぐらいの行列が見えてきた。
あそこは前に雑誌で見かけたラーメン屋だ。

「誕生日にラーメンもあれですけど。俺も食べてみたかったんですよね」

「あの雑誌の特集にのってたラーメン屋だろ?」

「はい!いつもは10人以上並んでるって書いてあったけど、今日は空いてる方かもしれませんね」

「早く並ぼうぜ。すっげえ腹減ってきた」

鳳とこうやって食事をとるのに並ぶことなんて初めてのことで、宍戸は嬉しそうに鳳の袖を引っ張る。
鳳は宍戸のその行動に頬を赤く染めながらされるがままについていきぴったりと隣に並んだ。
並んでいる間は午後の予定を鳳が大まかに話してくれた。
とりあえずラーメンを食べた後はDVDをレンタルして家でまったりとしようということだ。
その借りるDVDを2つに絞るためにああでもないこうでもないと話していたら、ラーメンの待ち時間なんてあっと言う間だった。

「俺の好きな味だったわ。当たりだなここ」

「魚介系のスープは入ってなかったですもんね」

「純粋な鶏がらベースが好きなんだよなあ」

「また来ましょうね」

「もっと寒くなってから来ようぜ。鼻水すすりながら食うラーメン旨いよな」

「でも並ぶとき凍えそうですね」

「お前は極度の寒がりだからなあ」

次に長太郎と休みが重なったら一緒にダウンジャケットを買いに行こうと、宍戸は鳳が似合いそうなブランドを頭に思い浮かべたりしていた。
それから家に一番近いレンタル店で決めていたDVDを借りて、帰宅途中にコンビニに寄り飲み物と摘める菓子を調達する。

「あ、やっぱり買うと思った」

「何がですか?」

「この新商品のチョコ、CMやってただろ。お前食い入るように見てたもんな」

「チョコの中にクリスピーナッツとか入ってるの好きなんですもん」

「知ってる。いつもナッツ系選らんでんの」

そして家の長太郎ボックスには中途半端に開けた菓子類がたんまり入っていることを指摘する。
鳳は痛いところを突かれたと両手を合わせ謝りながら、次には新作のチョコをもう開けていた。
こういうところは中学の頃から変わっていない。
宍戸に対してもそう、待てができないのだ。
好きなものにはとことん突っ走る鳳の性格だからこそ、こうやって恋人という関係が続いているのだと宍戸は思っている。
ここまでくると恋人というよりはもっと別な関係なのもしれないけれど。

家に帰って、服をくつろげる格好に着替えるとソファーの前に並んで座る。
最初は宍戸が前々から見たいと思って見はぐっていたアクション映画を再生した。
手に汗握るアクションシーンが盛りだくさんであっと言う間に見終わってしまったが、次に鳳が選んだヒューマン映画にふたりは油断していた。
スローテンポに進む展開に宍戸が挫折して鳳の肩に頭を預けてきた。

「宍戸さん?」

「………」

「寝ちゃった…」

そういえば付き合う前、中学生のころ、電車でこういう場面があったなと鳳は宍戸の髪に頬をすり寄せながら思い出す。
あの時は宍戸への一方通行な想いが暴走しそうだった。
至近距離で感じる宍戸の寝息や体温、そして太陽と汗の匂い。
目を瞑ると今でも鮮明に当時の気持ちがよみがえった。

「宍戸さん…大好きです」

再生されているDVDのことなど鳳の頭からすっかり抜けていて、目を瞑ったまま鳳も宍戸に寄りかかり、そのままいつの間にか眠りに落ちた。







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