Have a frightfully fun Halloween! 2.




先輩たちが引退した後のテニス部はまだ幾分寂しさを引きずっているが、それに甘えることなく与えられた厳しいメニューをきちんとこなして部活が終わる。
まだまだ三年生のレベルに達していないと自主練習するものも多い中、鳳は早々と着替えて部室を後にした。
宍戸が現役のころに比べたら一緒に帰る回数は遙かに減ってしまっている。
だからこそ鳳はこういう一緒に帰れる時間を一分一秒でも無駄にしないため図書室まで走るのである。

「お待たせしました!」

図書室のドアをガラリと勢いよく開けて、ある一カ所に迷いなく視線を向ける。
図書委員の生徒が鳳に向かって静かにと注意を促して、それに軽く一礼しただけで鳳はそそくさと足を進めた。
いつもの定位置にいた宍戸は鳳の声に気付くと右手を挙げてにこりと微笑んだ。
その姿に鳳の胸は一気に高鳴る。

「お前さ、図書室入るときいつも大声出すから先生に目えつけられてんぞ」

「そんなに大きい声出してます?」

「自覚ねえのかよ。いずれ出禁になるからな」

「気をつけます…」

「それよりこの課題あとちょっとで終わるから少し待ってろ、な?」

「はい」

宍戸が鳳の部活終わりを待つときは時間潰しに図書室で課題を終わらせる。
そうすると気持ち的にも時間的にも余裕が出来て鳳との帰り道を幾分ゆっくりにしてくれた。
だから課題の邪魔はしない。
鳳はハロウィンの台詞をいつ言おうと算段しながら宍戸のノートから聞こえてくるペンの音に耳を澄ます。
もしも宍戸さんがお菓子を持っていなかったらどんないたずらまでなら許してくれたのだろうか。
実際中学生の付き合いはなにかと制限が多い。
しかも学年の違う男同士の話となると世間が見張り番のようになっていて、キスひとつするのも自由がきかない。
は、は、裸で抱き合うなんて以ての外だ。
そうなると最終的ないたずらの到達点は…

「長太郎?…ちょーたろー!」

鳳は宍戸とのめくるめくいたずらの世界へと飛んでいた為に現実の宍戸に耳元で呼ばれてもすぐには反応出来ず、我に返ったときには宍戸が怪訝な表情を浮かべていた。

「す、すみません。考えごとしてました」

「課題終わったから、帰ろうぜ」

「はい」

素直に返事をしたあとで不意に鳳は思いつく。
このまま家路についても周囲の目があってハロウィンの台詞を言えないかもしれない。
それなら図書委員が管理室にいる今、他に誰もいないこの図書室で言ってみるのもいいかもしれない。

「どうした?」

「あの、宍戸さん…」

「なんだよ、勿体ぶらないで早く言えよ」

「…ト、」

「と?」

「トリック…オアトリート!」

「……はっ?」

宍戸のあからさまに呆れた顔に鳳はタイミングを間違ったかとびくびくしながら、慈郎から貰っているだろうお菓子を受け取るために両手を宍戸に差し出した。

「…あー…お菓子をくれなきゃいたずらするぞってやつか」

「そ、そうです」

「なあ長太郎。俺そんな都合よくお菓子なんか持ってねえんだけど…」

「えっ!?持ってないんですか?」

昼休みに見た光景は幻だったのか、いやそんなはずはない。
向日先輩に解説までしてもらったのだからと鳳はあの大量のお菓子が消えたことに戸惑っている。

「長太郎、ちょっとこっちこい」

「はっ、はい」

宍戸に袖を引っ張られ、本棚が立ち並ぶ隙間にふたりは入り込む。
そこは図書室の出入り口からも管理室からも死角になっている場所だった。

「宍戸さん?」

「しー…」

宍戸は唇に人差し指をあてて鳳に小声にするよう促した。
狭い空間では密着まではいかないにしてもふたりの距離はだいぶ近い。
そんな中で宍戸が顔を上げると上目遣いになり鳳の心を揺さぶった。

「長太郎は俺にいたずらしたいのか?」

「いたずら…したいです」

「…どんないたずらしてくれんの?」

宍戸の挑発的な瞳に鳳の頭は真っ白になり、気付けば両手を本棚に押しつけ宍戸をその中に閉じこめていた。
宍戸も半歩ほど引いて背中を本棚に寄せた。
するとその拍子に宍戸の制服のポケットから四角いチョコレートが一粒図書室の絨毯にポロッと落ちた。

「…あっ、チョコ…」

やっぱり慈郎先輩から貰ったお菓子を持ってるんだと鳳は確信したが、今のこの状況を考えると宍戸が嘘を吐いた本当の理由がなんとなく見えてきた。

「下に落ちたチョコなんて知らねえし…」

「うん。宍戸さんお菓子持ってないんですもんね」

「………」

お互い目を合わせたまま唇を近付けていくと、やがて宍戸は鳳の唇に視線を移して、そしてゆっくりと瞼を閉じた。

「宍戸さん、これだといたずらにならないですよ?」

「…うるせえよ」

触れるか触れないかの距離で鳳に指摘された言葉は、宍戸の唇が鳳のそれを捉えたことでかき消された。
啄むようなくちづけを何度か繰り返しているといつの間にか宍戸の腕が鳳の背中に回っていて、それに気付いた鳳は我慢できずに宍戸の唇をこじ開けようと舌先を押しつける。
宍戸は鳳の制服を皺になるくらいぎゅっと掴みながら、自ら唇を薄く開いて鳳の舌を受け入れた。
本棚に置いていた手もやがて宍戸の背中に移動して、ますます深くなるくちづけに収まりがつかなくなってきた丁度そんな時、静かな図書室に下校のチャイムが響きわたった。
それと同時にドアが開く音がする。

「すみませーん!もう図書室閉めますよー!」

図書委員の生徒の大声に我に返ったふたりは、咄嗟に唇を離して周囲を窺う。
誰にも見られてないとわかった途端に宍戸は唾液だらけの唇を袖で拭きながら照れた笑みを鳳に寄越した。
釣られて鳳も真っ赤な顔をして微笑んだ。

「…帰るか」

「…ホントは、もっといたずらしたいです」

「ばーか」

宍戸は呆れたよう呟いて鳳の腕からするりと抜けると、ポケットからお菓子を数個鳳の手のひらに乗せた。

「お菓子あげたからな。今日はもういたずら出来ないぜ」

「そんなあ!今更ですよー」

「別に…いたずら名目じゃなくてもいいだろ」

そう呟くと宍戸は鳳に背を向け、帰り支度を始めてしまった。見ると宍戸の耳どころか項辺りまで真っ赤になっている。
宍戸の言った言葉の意味を鳳はごくりと飲み込んで、後ろからぎゅっと抱き締めたくなる衝動を抑えながら、次への期待に胸を高鳴らせるのであった。

後程、飲食禁止の図書室で忘れ去られた一粒のチョコが見つかり、ふたりが図書委員にこっぴどく注意されたのはまた別のお話。







2013.10.27
SPARK8 無配コピー本より



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