せかいがかわる 2




あれからどのぐらい飲んだのか自分でも把握しきれていないほど酔っぱらった宍戸はタクシーを降りたあたりで気が付いた。
鳳にがっちりと身体を支えられている。
その力強さに寄りかかると鳳が耳元で囁いた。

「起きてるならもっとちゃんと歩いてくださいよ」

「んー?家の鍵はここにあるからさ…」

見当違いな返答をされた鳳はもうなにも話さない。
エレベーターで上がりドアの前まで行くと宍戸がおもむろに鍵を取り出そうとした。

「宍戸さん、今日は俺のうちなんで」

「…長太郎んち?」

少し驚いている宍戸をよそに、鳳は鍵を開けて宍戸を中に押し込めた。
宍戸が驚くのも当然だろう、ふたりが社会人になって宍戸が鳳のマンションに来るのは初めてのことなのだから。
徐々に酔いが覚めてきた宍戸は目を擦りながら初めて見る鳳の部屋を遠慮なく見回した。

「小綺麗にしてんだな」

「そうですか?はい、お水」

「おお、ありがと」

どんどんはっきりしてくる頭で視線を敏感に感じとると、鳳がじっと見つめていた。

「どうした?お前も酔っぱらってんのか?」

「…酔えたらよかったんですけどね」

「長太郎?」

「宍戸さん、こっち」

飲み干して空になったコップを宍戸から取り上げた鳳は、宍戸の手首を取り隣の部屋に移動した。
そこは鳳の寝室、中はリビングの明かりが差し込んでいるだけで薄暗い。

「別にベッドじゃなくてもいいぜ。こっちのソファーで寝るから」

「いえ、ベッドで寝てください」

「ここお前のうちだろうが。お前がベッドで寝ろよ」

「…えぇ、だから、…一緒に…」

「……はっ?」

なにを言われているのかわからず戸惑っていた宍戸は無防備になっていて、鳳に手首をグイッと一気に引っ張られると面白いくらい簡単にベッドへ転がった。
呆然としている宍戸の上にすかさず乗り上げた鳳は、いつもの人懐こい後輩ではなく、今まで見たこともない雄の顔をしていた。
マウントをとられ両手を拘束された宍戸は目を見開いているだけで言葉が出ない。

「女といるより俺といた方が楽しいとか、俺が結婚すると寂しくなるとか…、そんなこと言われたら期待しちゃうじゃないですか」

「ちょ、うた、ろ…」

鳳の顔が宍戸へと近づいてきて、思わず避けるように首を仰け反らせると、その首筋に鳳が顔をうずめてきた。
生暖かい息が直接肌に掛かり宍戸は反射的に声が出そうになるのを必死に耐える。

「期待…って…」

「…宍戸さんも…俺を好きなんじゃないかって…」

「………」

「宍戸さん…、俺、中学のころから…宍戸さんのこと、好き、でした」

「……っ…」

「出来る後輩になれなくてごめんなさい、信頼を裏切ってごめんなさい!…でも、でも、好きです」

「長太郎…」

「宍戸さんのこと大好きなんです!」

酔いが完全に覚めた頭に切羽詰まって吐き出している鳳の言葉がダイレクトに入ってきて身体が痺れた。

「宍戸さん…」

耳元で呼ばれたその声が震えていることに気付き、思わず鳳の顔を覗こうと首を動かすと、そのまま唇を塞がれてしまった。
唇から好きだという気持ちが押し寄せてきて溺れてしまいそうなほど熱くねっとりとしたくちづけが何度も降ってきて宍戸を翻弄する。

「…っは…ぁ…」

「宍戸さん好き…、好きです…」

「…んっ…」

「ごめんなさい…」

口元から首筋、肌蹴たシャツから覗く鎖骨へと鳳の唇が移動していき、その丁寧な愛撫に身体が勝手に反応してしまう。
いつの間にか宍戸の両手が拘束から解かれていたが抵抗するどころか鳳の背中にしがみつくことしかできない。
鳳が布越しに太股の内側を探るように撫でると宍戸はたまらず声を上げた。

「あっ…」

「そんな声出さないで…、ひどくしちゃいそう」

「んっ……ちょうた、ろ…」

「宍戸さん、ごめんなさい…」

鳳の指や唇が宍戸のすべてを暴くようにせわしなく動き始め、宍戸はその刺激に溢れてしまった高ぶりを抑えるすべを知らず、鳳の肩を強く噛むことでしかやり過ごすことが出来なかった。







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