memorize 3




昨夜の残っている記憶と今の状況が宍戸を余計動揺させた。
長太郎は俺のこと何とも思ってなくて、あのキスも酔った勢いでされたのかもしれない…。

俺が記憶がないほど酔ってたんだ、長太郎だって十分有り得る。

宍戸は考えれば考えるほど悲みが深くなっていった。
鳳が目覚めたときの宍戸の反応が今後の2人を左右する。
悲しみをそのままぶつけることはできない。
だからって身体を繋げてしまったまま先輩後輩の関係に戻るなんて虫がよすぎる。
起きてみれば同じベッドにいたのが男の先輩で、そのことに対して嫌悪の眼差しを向けられたらと思うと胸がキリキリと痛み宍戸は思わず顔をしかめるが、常識的に考えてその可能性の方が大いにあるだけに鳳が目覚めた時は謝るだけ謝ってすぐに立ち去ろう。
宍戸は整理仕切れない頭をフルに活用し最悪の事態を想定した。

そんな時、鳳が唸って顔を動かした。
宍戸に緊張が走る。
腕に力が入り項に顔を押し付けてきて、そのくすぐったさに鳥肌が立った。

「……ん?」

「………」

「…あ………」

宍戸からは見えないが、ぴったりくっついていた背中との間に隙間が空いたのがわかる。
そして鳳が一瞬で状況を把握したのが声でわかった。

冷や汗が出る勢いだ。
どうすればいい、俺。
どうするんだ、長太郎。

「…宍戸さん…」

寝起きのふわんとした声色を宍戸の耳に流しこむ。
鳳は宍戸を認識したにも関わらず間近で声を掛けてきて、反射的に肩を竦めてしまった宍戸は狸寝入りも出来なくなった。

「宍戸さん、起きてるんでしょ?」

「………」

「身体…辛くありませんか?」

この言葉を宍戸が頭で噛み砕く間もなく鳳は宍戸に覆い被さってきて、露出している肩にくちづけた。
宍戸はそんな鳳の行為にビックリして後ろを振り返ってしまった。
その動作に鎮まっていた秘部の痛みがぶり返し、少し顔をしかめた。

「大丈夫ですか!?」

「…あ…あぁ…」

「…辛かったら我慢しないで言って下さいね。…俺も自制がきかなくて…宍戸さんの負担も考えずに…」

ごめんなさい、と耳元で囁いた鳳は今度は宍戸の頬にくちづけた。
その行為に唖然としている宍戸に気付かないのか、鼻先やこめかみにもキスをしてくる。

こんな甘ったるい雰囲気など宍戸の予想したことではなく、嬉しいという感情が湧くどころか今はただただ驚くばかり。

「宍戸さんはゆっくり寝てていいですよ。とりあえず水持ってきますから…」

「………」

黙っている宍戸をいいことに唇に優しいキスを二度ほど繰り返してから鳳は上半身を起こした。
その柔らかい感触に昨夜の居酒屋でのキスを思い出す。
鳳が何故こんな態度をとるのかまったく理解出来ず、その考えが無意識に行動に現れてしまい、宍戸の伸ばした手は鳳の腕を捕まえていた。

「なんですかぁ…、離れたくないのはわかりますけどすぐに戻ってきますから、ね?」

「…長太郎…」

「もう…そんな声で呼ばないでくださいよー」

鳳はまたもや宍戸の唇目掛けて顔を近付けてきた。
しかし宍戸はそんな鳳の顎をがっちり掴んで遠ざけた。

「いたたたた…」

「おい、この状況は…何なんだよ…」

「……えっ?」

「その調子じゃお前は記憶残ってるんだろうが…、俺は浦島太郎状態だ…」

「…宍戸さん…昨夜の記憶ないの?」

「…飲んでる途中からねぇよ…」

「そんなぁ…。確かにたくさん飲んでるなとは思ってたけど…」

「だから、この状況を、説明しろって!」

「どこから記憶飛ばしました?…まさか…居酒屋でキスした事も…?」

「…それは……覚えてる…」

そう返事すると鳳はふにゃりと顔を崩して、よかった…と呟いた。
何がよかったのかさっぱりわからない宍戸に鳳は衝撃的な昨夜からの出来事を話し出した。







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