切れ端ラブレター 4.
「アチッ」
「あーあ、言わんこっちゃない…。ライター寄越せ」
「はい…」
「指は?火傷見せてみろ」
「大丈夫です、大したことないですよ」
言いながら少し赤くなった人差し指の爪の脇あたりを見せたら、手首を取られ宍戸さんの口内へとその指が導かれた。
舌が絡まって指先どころか全身が火照る。
しかし火傷の痛みが直ぐに追い抜いた。
「いったーっ!痛いです!沁みます!」
「特効薬だろ?」
「もー…」
人差し指を引き抜き、ふうふうと息を吹き掛けながら宍戸さんを恨めしそうに覗くと、数字の蝋燭は既に灯っていてその向こう側でいたずらっ子のような笑みを見せていた。
やっぱり敵わないなと今日も思う。
「ほら、蝋燭溶けてくるから、早く言ってくれよ」
「あっ、えっと…誕生日おめでとうございまーす!!」
「なんかグダグダしてんなー」
肩を揺らして笑いながら宍戸さんは蝋燭の炎を一吹きした。
そして俺に視線を合わせ、ありがとうと静かに呟いた。
「あの会えない時期があったから長太郎の告白を受け入れられたし、こうやって一緒に住んで初めての誕生日を迎えられるんだって思ったら…なんかスゲエな」
「ものすっごい勇気を出して告白した高校二年生の俺に感謝してくださいね」
「ホントだよな!あの時のまだ可愛かった長太郎に感謝だよな」
「今がダメみたいな言い方にしか聞こえない…」
「んなことねーよ!今も十分可愛いぜー」
勝手に俺のグラスにカチンとグラスを合わせ乾杯をし、美味しそうにシャンパンを飲んでいる宍戸さんは本当に満足そうで俺は過去の自分に良くやったと心の中で労った。
宍戸さんとぎくしゃくしたままなのはどうしても嫌で、卒業して宍戸さんが俺を忘れていってしまうのなら会いたいこの気持ちをぶつけて綺麗に散ろうと決心したのは三年生が卒業する数日前。
会えない時期に書いては捨てていたゴミのようなラブレターは結構な数になっていたように思う。
今はあのラブレター無くても言葉で言えるけど、だからこそ切れ端のラブレターが実感させてくれる宍戸さんとの今。
「何ニヤニヤしてんだよ…」
「宍戸さんの誕生日をこうやって祝えてる実感を噛み締めてるんですよ」
「そんなに嬉しい?」
「もちろんです!」
「…お前は昔から…」
「なんですか?」
「なんでもねぇ…」
宍戸さんが席を立ってこっちへ歩み寄ってくる。
どうしたんだろう、と座ったまま宍戸さんを見上げると、直ぐに影が落ちてきて唇に柔らかい感触がした。
肩に置かれた宍戸さんの手が思いのほか力強く、まるで俺を放さないと言われてるようで嬉しさが込み上げ、調子に乗って舌を差し入れてみればすんなりと許可された。
たっぷりと宍戸さんの口内を堪能したあと名残惜しく唇を離す。
すると目の前には、頬を染め眉を潜めて唇を少し濡らした宍戸さんがいて、その表情は初めてキスした卒業式の宍戸さんと何も変わってなくて胸が苦しいくらいに満ちてくる。
「締まりのねぇ顔しやがって」
「だって…俺が嬉しがることするから。宍戸さんの誕生日なのに…」
「誕生日とか関係ねえよ。俺がしたいからするんだ」
宍戸さんが俺の膝の上に対面で乗ってきた。
重みで床が微かに鳴ったが気にする余裕はもうない。
宍戸さんの腕が首に絡まり、俺はがっちりと宍戸さんの腰を抱き寄せ、お互い逃げも隠れも出来ない体勢になる。
「ケーキは?」
「いい」
触れるだけのキスを何度も繰り返しながら、ますます身体を密着させた。
不意に顔を離した宍戸さんが、俺の唇をじっと見つめてそれから下唇をぺろっと一舐めされ、また見つめられる。
「なんですか?」
「んー?やっぱりどうやっても長太郎は男クセェしな、そりゃいい匂いなんて求めてねぇけど…」
「なんか…ひどいッス」
「甘いのはなんでだろうな」
「…はっ?」
「桃なんて目じゃねぇくらいの…」
最後は独り言のように呟いて、それを確かめるようにゆっくりと丁寧なキスをしてきた。
明日はお互い仕事なんだけど、こんな積極的な宍戸さんを止めるのは勿体ない。
キスに夢中な宍戸さんのシャツの裾から手を差し込んで素肌を撫でると、ピクッと反応しただけで拒まれることはなく、ならば甘く熟れた宍戸さんを存分に堪能することにした。
あの日初めて書いた切れ端のラブレターへ込めた想いより、もっともっと貴方を愛することを誓いながら。
終
HAPPY BIRTHDAY!R.SHISHIDO!
2011/09/29
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