切れ端ラブレター 3
「俺も…今でも覚えてるよ、あの時の長太郎の背中…」
「ホントですか!」
「うん、おとーさんみたいな頼もしい感じが忘れられねえ」
「おとーさん!?」
宍戸さんが笑っているのを見ると半分冗談なのはわかるけど、それでも覚えていてくれてたのは嬉しかった。
リビングのローテブルには小さめのホールケーキが置いてあり数字型の蝋燭が宍戸さんの年齢を主張している。
今日からまた宍戸さんとは二歳差になってしまった。
それは社会人になった今でもほんの少し寂しい気分にさせる。
二歳も年が離れてしまうことも理由のひとつだけど、俺が高校二年の今日という日に宍戸さんと険悪になってしまったことを思い出すから。
「宍戸さんが俺を意識し出したのは…いつ頃なんですか?ほら、宍戸さんが高校最後の誕生日から俺たち会わなくなったじゃないですか。それなのに…卒業時に告白を受け入れてくれたし…」
「あー…今さら言うの?」
「俺ばかり話してズルいです」
「…たぶん、その会わなくなった時期があったから意識したんだと思う」
宍戸さんは今日のために奮発して俺が買っておいたシャンパンをグラスにゆっくり注ぎながら話し始めた。
その表情は穏やかで、淡い思い出が滲み出ているようだった。
宍戸さんの高校三年の誕生日、本当は俺が宍戸さんに告白しようと決意していた日に俺はひとつ年上の女の先輩から呼び出しを受けた。
それは宍戸さんからもたらされたものだった。
宍戸さんの誕生日に他の女子に会うなんて考えてもいなかったし、その話を宍戸さんが持ってきたのも信じられなかった。
女の先輩の元には行かない、と俺はキッパリ言って宍戸さんと過ごす方を選択したけど、宍戸さんはいい顔しなかった。
「俺が先輩風吹かせて長太郎を縛り付けて、モテんのに今まで彼女作らせる暇も与えてやれなかったから…」
「そんな…彼女とかいりません。余計なお節介……あっ…」
「だよな、お節介だったな。わかった、ごめん」
あの日そのまま宍戸さんは帰っちゃって、誕生日おめでとうの一言も言えず仕舞い。
それからなんかぎくしゃくして、宍戸さんの大学進級の大事な時期も重なって、まったく連絡取らなくなりましたよね。
でも今ならわかるでしょう?
俺は宍戸さんがずっと好きで、その宍戸さんに彼女作れみたいなこと言われたら頭に血が昇りますよ。
「そん時に長太郎の気持ちわかっても良さそうだったのに、俺も大概鈍感だよな」
「今ごろ気付きました?」
「てめぇ…」
口調で威圧感を出しても目が笑ってるから何の効き目もない。
俺はにこりと微笑んでライターを手に取った。
「…長太郎に会えない時期にいろいろ考えたんだ。今まで長太郎とずっと一緒にいれたのは長太郎が連絡とかしてくれたお陰で、それも無くなったらこんなにも会えなくなるもんなのかって…」
「………」
「これからもう一生長太郎と会えないままになるのかとか思ったらさ…、急に長太郎と会いたくなったりして」
「でもあの時期に宍戸さんから連絡は一度もなかった…」
「混乱してたんだよ。おかしいだろ普通に考えて。男の後輩に会えないのが寂しいとか…そんなの認めたくないっていうか…、でも長太郎に会いたかったのは事実」
「宍戸さん…」
昔話を話されてるのに、会いたかったなんて言われたら胸がグッと熱くなってくる。
手が震えてケーキの蝋燭に上手く火が灯せない。
「危ねえな…、ライター貸せ」
「いや、宍戸さんの誕生日なんだから俺が点けます」
「火傷されたらたまんねえし、いいから貸せよ」
あの会えなかった数ヵ月、俺は毎日宍戸さんを思い浮かべて、毎日会いたいと思っていた。
また彼女作れと言われたら立ち直れそうにないから臆病になって自分から連絡は出来なかったけど、宍戸さんも俺に会いたいと思っていてくれてたなんて、今さら嬉しくて目の前がぼやけてくる。
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