切れ端ラブレター 2




一番辛かったのは…跡部さんが高等部を休学してイギリスへテニス留学するって話が出たときですね。
中等部の間でもあれはすごい噂になってました。
俺はその噂を耳にした瞬間、宍戸さんを思い浮かべたんです。

跡部さんにテニスで勝利するまで挑み続けてることは周知の事実で、でもそれが宍戸さんを想っていた俺からするとすごく不安だったから。
ふたりには俺の入り込めない何かが絶対あったんです。
正直、いつも嫉妬してました。

今?今は大丈夫です。
宍戸さんが俺のこと大好きだって知ってますから。
…イテッ、調子に乗りすぎました。

でも当時は、片想いの上宍戸さんと学校が離ればなれになってて、俺が知らないところで宍戸さんが留学する跡部さんのことを思っているなんて考えたら眠れない夜も結構あったり。
だからたまらず高等部まで押し掛けて行ったんです。
さすがに覚えてますか?

あの時の俺を見つけてくれたときの宍戸さんの笑顔が今でも忘れられません。
どんな顔してたかって、「お前に会いたかったんだ」って言われてるような安心しきった笑顔でした。
久しぶりの宍戸さんだったけど、その笑顔は跡部さんのことで悩んでた自分の気持ちをぶつける相手が出来た嬉しさゆえの笑顔なのか、純粋に俺と久しぶりに会ったから自然と出た笑顔なのか、たぶん前者だと思ったから胸がはち切れそうでしたよ。

その日の夜、公園で話しましたよね。
俺は宍戸さんの顔を見るとどうにかなっちゃいそうでベンチに座りながら背中見せてましたけど、俺の気持ちも知らないで宍戸さんは俺の背中に頭と肩を預けてきて、泣きそうになりました。

「長太郎…」

「はい」

「俺、まだ跡部に一勝もしてねえんだよ」

「…はい」

「アイツがもしこのままイギリスに行っちまったら、俺は…」

「宍戸さん」

「なんだよ」

聞きたくなかった。
もし宍戸さんが跡部さんのことを…、とか思って決定的な言葉を言われたら俺はもう感情を抑えきれません。
弱気になった原因は跡部さんかもしれないけど、宍戸さんが初めて俺に弱さを見せてくれたのは今までの俺と宍戸さんとの時間が積み重なってそうなったことで、それは跡部さんでも邪魔されたくなかった。
あの夜は俺だけの宍戸さんだったから、他の誰かを口に出してほしくなかったんです。

「あと少しで俺が高等部行きますから、そしたらまたダブルス組んで全国で一番のダブルス目指したいです」

「………」

「それを目標にして下さい」

「命令かよ、後輩のくせに…」

「………」

「わかった。やってやるよ、目指そうぜダブルスの一番」

「はい」

「アイツもこうやって上を目指すために決断したんだもんな。俺も長太郎と心中するか!」

宍戸さんの声が軽くなったのがわかって、俺の気持ちがほんの少しでも伝わったのが嬉しかったです。
ただその後の宍戸さんの言動に危うく本心がバレそうになりましたけどね。

「長太郎の背中やっぱ広いな。温かいし…安心する」

「えっ…」

こうやって宍戸さんが俺の背中に手を這わせてきたんですよ。
やってました、間違いないです。
暗闇でよかったですよ。
俺真っ赤でしたもん。

「なんかお前の心臓バクバクしててスゲェんだけど…」

「なんでもないです!か、帰りましょう!」

「急に立つなよ」

喉元まで『好き』って言葉が出掛かってたのは認めます。
でも吐き出してしまったらやっぱり俺に触れてくれなくなるかもしれないとか考えてしまって、結局何も言えませんでした。
その日家に帰ってから宿題やらなきゃいけないのに、弱ってた宍戸さんとか背中に残る温もりとかが頭から離れなくて、目の前のノートの端に『愛してます』って書いては消してを繰り返して、消したはいいけど筆圧で痕が残ってしまって端を破って引き出しに仕舞いました。

今宍戸さんが持ってるのはその時のだと思います。
捨てたはずだと思ってたんですが残ってたんですね。
いつの間にか忘れてた当時の苦い思い出です。







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