聞こえてますか? 2




「こ、こんにちはー」

「なに緊張してんの?」

宍戸が校門で待つ鳳を見つけ足早になったことに気付き少し嬉しくなっていつもの笑みを浮かべようと思ったが、顔の筋肉が動いてくれない。
しまいには簡単な挨拶を噛んでしまって鳳はますます身を固くする。
そんな鳳を見て、宍戸は口を押さえ耐えきれないというような表情で笑い出した。

「お前、久しぶりに俺と一緒に帰るから緊張してんのか?ダッセー!激ダサ!」

「そ、そんなことないです」

「緊張すんなよなー。なんか、少しさびし…」

「…えっ…」

「しっしどー!」

宍戸が言い掛けた言葉が気になり咄嗟に聞き返そうとしたが、校舎の方から向日が手を振りながらぴょんぴょんとこっちに向かってきて、鳳は結局宍戸の言い掛けた言葉の続きを聞きそびれてしまった。

良いように解釈しすぎだ。
まさか宍戸さんが寂しいだなんて、そんなこと…

「俺も途中まで一緒に帰っていいだろー?」

「いいよな?長太郎」

「あ、はい」

宍戸よりも向日に会う方が久しぶりの鳳だが、なぜか向日が加わってくれて助かったと思ってしまった。
やはり宍戸に好きな人がいて、どうしてもそれが気になって態度に出てしまうからだ。
好きな人のひとりやふたりいて当たり前だと理解していても、考えてしまうと胸が抉られるように痛んでどうしても平静でいられない。

昔よく指摘されたメンタルの弱さをこんなことで痛感してしまうなんて、テニスのことではないのに、と鳳はふたりにバレないようにため息を吐いた。

今年は例年にない寒波が押し寄せているようで三人の横っ面を攻撃的な北風が襲ってくる。
そうなると自然に無口になり、横に並んだ三人は黙って歩いていたが、宍戸と一緒にいる鳳までもが無口なのに違和感を覚えて、向日は寒さで涙ぐんだ大きな瞳をごしごしと擦りながら鳳に話し掛けた。

「そういや鳳は知ってる?宍戸がさー最近モテんの」

「えっ…あ…」

「この前も告られてたしな」

「関係ねえだろ!?」

「………」

「しかも!すっげぇ可愛いこだったのにふったんだよ、こいつ」

「別にここで話すことじゃねえよ!」

鳳はマフラーに鼻先まで埋めてふたりの会話を聞いていた。
知っている、その告白したこは俺のクラスメートだから。
しかも宍戸さんには好きな人がいるんでしょ?
俺には関係ないことと宍戸さんは思っているから何も言ってくれないだけで。

鳳の表情はずいぶんと暗い。
どうして宍戸のことになるとこんな気持ちになるのかわからないまま、顔を隠せるマフラーに感謝しつつふたりの会話を聞いている。

「でさ!宍戸、ふった理由がさぁ…好きなヤツがいるとか?聞いたぜ!?」

「お前…どっからそんな情報を…」

「俺様の情報網をなめんじゃねえぞ、あーん?」

「似てねえ…、ってかその場凌ぎで言っちまっただけだよ」

「はっ?」

「えっ?」

思わず鳳はすぐ隣の宍戸に身体ごと詰め寄る。

「嘘ってことですか!?」

「ウソ?ホントに?宍戸好きな奴ホントにいねえの?白状すんならいまのうちだからな!」

「…近ぇって」

「あっ…すみませ…」

気付けば宍戸の二の腕を掴む勢いで、急いでその手を仕舞いながら鳳はそれでも宍戸に本当に好きな人がいないかハッキリ聞きたかったから宍戸から視線を逸らすことはしなかった。
宍戸は鳳をいつもの鋭い目付きで睨んでから視線を外した。

「宍戸、好きなヤツいないって方が嘘だろ!」

「はあ?」

「隠しきれてねえよ、ほっぺがまっかっか!宍戸くんかあわいい!」

「バカ言うな!」

鳳と向日を置いてさっさと先を歩き始めた宍戸の背中を鳳はまたマフラーに顔を半分埋めて見つめた。

治まった胸の痛みがぶり返す。

「小さいころから一緒だったから態度でわかる。あれはいるね、好きな人」

「………」

宍戸に聞こえない程度に向日が鳳に小声で話し掛けた。
向日は幼馴染みの弱点を見つけたとばかりににやにやとしていたが、鳳にそんな余裕は毛頭なく返事も出来ずに眉をハの字に曲げて宍戸を見るばかりだった。

どうして宍戸さんに好きな人がいるとこんな気持ちになるんだろう。
好きな人がいなければいいの?
そういうことじゃなく、例えば宍戸さんの好きな人が誰だったら納得するんだろう。







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