Dream


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What's your name?

「似合うじゃん、ゼロ」
「男前が上がったな」
「こっちの方が実年齢に見えるかも」
「童顔だもんな」

降谷を囲むのは、諸伏、伊達、伊達、松田だ。

「松田は人のこと言えないだろ!」
「降谷! 動かないで!」

振り向きかけた降谷の頭を思い切り引き戻す。
むくれた降谷の乱れた前髪をもう一度綺麗にセンターで分けて整える。

「おぉ……! ゼロが大人しく言うこと聞いてる」

諸伏が感動して目を輝かせているのがおかしくて名前がクスクスと肩を揺らす。
ハロウィンの仮装をするから手伝って欲しいと降谷に頼まれたのが二週間前。衣装は萩原が手配するからメイクを担当して欲しいと言われて二つ返事で引き受けた。

「降谷ちゃんも美人には弱いんだな」
「綺麗系が好みらしいぜ」

背後で萩原と松田がヒソヒソと、それでもきちんとこちらに聞こえるように話している。
顔を動かすことができない降谷は鋭い視線を向けるが、二人はニヤニヤとするばかりだ。

「それじゃあ僕が名前の顔が一番好きみたいに聞こえるじゃないか」

仕上げのスプレー缶を手に持ったまま名前が固まる。
少し離れたところでは諸伏が落とした包帯がコロコロと転がっていく。

「降谷は苗字さんのどこが一番好きなんだ?」

苦笑しつつ真面目に尋ねるのが伊達らしい。
動けないでいる名前を面白そうに眺めながら降谷は口を開く。

「一番が多くて絞れないから長くなるぞ」
「あーはいはい! ごちそうさま!!」

苦虫を噛み潰したような顔をした松田が手を振って逃げていった。これでこの話題が終了になったかと胸を撫で下ろした名前の隣に萩原が立つ。嫌な予感しかしないが、もう平常心は取り戻していた。

「苗字ちゃんはゼロのどこが一番好き?」
「顔ね」

即答した名前にその場が静まる。そして次の瞬間にはどっと笑いが溢れた。

「苗字ちゃん最高だね」
「よかったじゃねーか、ゼロ」
「ゼロ、顔怖いぞ」
「名前。覚えておけよ」

降谷の言葉は無視して「はい、できた」と背中を押した。そしてくるりと振り返ると四人にニッコリと笑う。

「萩原君はそこにマント置いてあるからね」
「りょーかい」
「伊達君、ネジの位置がズレてるわ」
「鏡か。ありがとな」
「松田君は手出して」
「うわっ。この爪、凶器じゃん」
「じゃあ俺はこの包帯かな」
「諸伏君の包帯は降谷が巻いてあげて」
「任せろ」

細かな指示を順に出し、それぞれが仮装を仕上げていく。そして数分後、デーモン・フランケンシュタイン・狼男・ミイラ男・吸血鬼が現れた。皆鍛えられた身体なのでなかなかの迫力だ。

「皆似合ってるよ」

名前に太鼓判を押された面々は、早速外で写真を撮ろうと歩き出す。その中で諸伏が名前を振り返った。

「苗字さんは仮装しないの?」

当然の問いだろう。「そうだよな」と賛同した松田を筆頭に「今から用意するか?」と伊達が言い、萩原は「魔女コス似合いそう」と具体的に提案してくる。
降谷一人が名前を見つめていた。少しだけ心配そうに。

「私はいいの」

名前は首を横に振る。そして笑った。

「自分じゃない姿になるのはたくさんやったから」

先程とは違う沈黙が流れる。諸伏も松田も萩原も伊達も、名前の事情を知っている。気を遣わせるかもしれない。でも嘘をつく必要も感じなかった。ほんの僅かな名前の不安に、返ってきた四つの笑顔だった。

「じゃあ苗字さんが着るのはアレだね」
「そうだな」
「だよね♪」
「それしかねぇな」

「「「「ウエディングドレス」」」」

四人がドレスの形は、お色直しは、ブーケトスは外せないと盛り上がる中、名前は呆然と立ち尽くしていた。

「どうした?」

降谷が腰を曲げて目を合わせてくる。

「自分がウエディングドレス着るなんて考えたこともなかった。結婚なんてできるわけないって思ってたし」

降谷が名前の手を握る。

「……今は?」

絡められた指から温もりが伝わってくる。
見上げると真剣な青い瞳が名前を映していた。

「今なら想像できる?」

他人と一緒にいる未来。誰かと一緒にいる未来。想像することもなかった。でも降谷が隣にいる未来は……。

「想像できなくも、ないかも」

呟いた小さな本音に降谷は目を細めた。

「そうだな。僕も綺麗な花嫁を想像できるよ」

降谷が絡められた手を引く。その先で優しい目が名前たち二人を見守っている。
今はまだ想像しかできない未来。それでもきっとこの手を繋いでいる限り――。


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