Dream


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Episode1. 04



苗字名前と降谷零は警察庁警備局警備企画課の同僚で同期でバディだ。

「いらっしゃいませ」

もう長い付き合いと言える相手がカフェの店員として名前を迎えている。1か月前までの自分に伝えてもきっと信じはしなかっただろうこの展開に名前はいまだ慣れない。

「アイスコーヒーでいいかな」
「宜しく」

ポアロのウエイター安室透は紳士的な人間だ。見た目に加えてよく機転が効くので店員としての評価もすこぶる良い。あっという間にポアロに馴染んだ。
そして待田ケイは依然ポアロの常連として店に通っている。

「待田が気に入りそうなメニューがあるんだけど、どう?」
「任せる」
「わかった」

安室は頷くとキッチンへ入っていく。そう言えば最近ポアロのメニュー表を開けていない。新メニューがないか見てみようとメニュー表を手に取ろうとした時、入れ違いで梓がカウンターに戻ってきた。どうやら梓は先程のやり取りを見ていたらしい。

「安室さんとケイさんって付き合ってました?」
「…どうして?」
「だって安室さん、ケイさんの好み把握してるみたいですし」
「そりゃ安室君は探偵だし人のことよく見てるから。私以外の常連さんの好みももう把握してるんじゃないかしら」
「そうですかねぇ…」

名前自身そう言いつつ梓の違和感の原因はわかっていた。
さすがの安室も常連客の好みを把握していたとしても注文内容を勝手に決めることはしない。それをするのは名前相手だけだろう。それはひとえに安室(というか降谷)が名前の食の好みに絶対の自信を持っているからだ。

「お待たせ」

納得できない様子の梓に、他の話題を振ろうとしていたところで安室がやってきた。まるで図ったかのようなタイミングだ。
テーブルに置かれたのはチョコムースのケーキだった。これも名前の好物の一つだが言ったことがあっただろうか。チラリと安室を見ると澄ました顔でキッチンへ戻って行った。

「安室さん、私ちょっと買い出し行ってきます」

ケーキがあと半分になる頃、棚を確認していた梓が上着を羽織った。

「この時間にですか?僕が行きますよ」
「明日の開店準備分がなさそうなんですよ。ちょっとそこまでですし。他にお客さんもいないので2人でお話ししててください」

閉店間際のポアロには名前以外の客はいない。2人の関係をどう思っての行動なのかあまり考えたくはないが気を回してくれたのは確かだ。
カランとドアを開けた梓が出ていって1分。フッと安室が苦笑する。

「梓さんに悪いことをしたな」
「そう思うなら買い出し行けば良かったでしょ。『安室くん』?」
「人の親切は受け取ることにしてるんだ」

嘘だ。自分に都合のよいことしか受け取らないだろうに。
安室はキッチンから出てきて名前の隣へ腰かけると顔を近付ける。

「それで、昨日の件どうだった?」

安室透の柔らかい空気が一瞬で降谷零の緊張感を持ったそれに変わる。
昨夜、組織からの急な呼び出しで動けなくなった降谷の代わりに名前が指揮を執った案件があった。一言無事終えたことだけは連絡していたが、報告書もまだまとめていないので詳しくはわからないだろう。
手短にまとめて話すと最後まで聞いた降谷は「さすがだな」と呟いた。

「お疲れ。助かったよ」
「どういたしまして。報告書がなければもっといいんだけど」
「優秀なバディはそれくらいお手の物だろう?」
「どこかのバディのおかげでね」

ケーキを食べ終えて残りのコーヒーを含むと先程よりも苦く感じられた。ケーキの甘さに合わせて淹れていたのだろう。本当にこの男は警察官なのかと疑いたくなる。

「ポアロの仕事はどう?」
「問題ない。接客は嫌いじゃないし、料理の腕は君がよく知っているだろう?何せ僕の料理を1番食べているのは君だからね」

苗字名前と降谷零は同じ職場で同じ歳で相棒だ。だがそれだけでは説明が足りない。

「なぁ、明日の朝食も食べたくないか?」

頬杖をついてこちらを覗き込んでくる。安室透の柔和な雰囲気とも、仕事の話をしていた時の降谷の雰囲気とも違う。名前以外の誰も知らないだろうこの空気は強いて言うなら、甘い。

「今日はゆっくり寝たいんだけど」
「諦めてくれ」
「即答!?」

名前と降谷が男女の関係になって数年だが、2人は揃って「付き合っていない」と言う。
「好きだ」とも「付き合いたい」とも言ったことがない。だから付き合っていないと主張する。そこには2人の関係を明確なものにしたくない理由がいくつか存在するからなのだが、それはお互いが知っていればいいことだろう。

「そろそろ梓さんが戻ってくるな」

ポケットからカチャリと鍵を取り出すと名前の手に収める。中を見なくてもそれが降谷の愛車のキーであることがわかる。

「シフトが終わるまで車内で仮眠でもしててくれ」
「嘘でしょ!?少しは寝られるよね…?」
「難しい相談だな。正直、何回抱いても抱き足りないんだ」
「な…に、それ…」

絶句していると青の瞳が弧を描いて艶やかに微笑んだ。

「身体は素直ってことだな」

素直なのは降谷の身体だけではないようだ。名前は身体の奥に熱が灯ったのを感じた。



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