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Episode5. 03



「……というのがボクたちの計画だよ」
「つまり昴君に変装した優作さんが安室君と対面して、同時に別の場所で赤井捜査官が現れることで2人が別人だと思わせるってことね」

コナンが告げたのは赤井秀一を追跡するバーボンを躱すための作戦だった。ここまでのバーボンの動きから、ジョディ捜査官とキャメル捜査官を誘い出そうとしていることは名前も予想していたが、コナンたちも同意見だったようだ。赤井秀一の死を偽装した来葉峠、灰原哀になった女性を死んだと思わせたベルツリー急行。そして今回の入れ替わり計画。全てこの少年が考え、周囲の人間を動かしている。

「さすがね…と言いたいところだけど、公安警察を甘く見てもらっては困るわ。目標を目の前にして必死に追いかけてくる彼らから赤井捜査官は逃げ切れるかしら?」

名前の挑発的な言葉に沖矢昴は薄く笑って応戦する。

「問題ないですよ。あの峠には直線があるんです」
「……なるほど。この日本で発砲しますか」
「おっと。見逃してくれませんか」

来葉峠には途中200メートルの直線がある。そこで彼が何をするつもりなのかを察して咎めるような視線を投げるが、両手で降参のポーズを取る沖矢は全く動じていない。

「気付かなかったふりをしましょう。……今回スターリング捜査官たちを人質にしようとしているのはこちら側ですからね」
「過失の割合は50:50ということで」
「日本警察の許可も取らず動き回っているそちらの過失の方が多いんじゃありませんか?」
「あなたもFBIに対して何か含むところがおありのようですね」
「あくまで建前ですよ。これでも日本警察を束ねる警察庁の人間ですから」
「ボクたちは公安の人たちをどうにかしたいわけじゃない。赤井さんが捕まるのを阻止して、敵対したくないってことを安室さんにわかってもらいたいだけなんだ!」

不穏な空気を漂わせる2人の間にコナンが焦って割り込んでくる。コナンの主張は理解している。だが類まれな推理力を持つ彼にもまた足りないピースがあるのだ。

「我々の敵はFBIではなく組織だと言いたいのね」
「違う?」
「間違ってはいないわ。でも精確でもない。赤井捜査官は我々の味方ではない。それが公安警察の見解よ。この意味、わかりますよね?」

名前の棘がある言葉にも沖矢は表情を変えない。
赤井はスコッチ……諸伏を助けなかった。降谷の報告書にはその場にいながら彼の自害を止めなかったと記載されている。直接手を下したのではないが『仲間を見殺しにしたFBI捜査官』だ。公安警察は彼のことをそう考えているだろう。

「でも名前さんなら公安の人たちを……安室さんを止められるんだよね」

コナンは真摯な瞳で名前を見上げる。彼のこの眼に名前は弱い。偽りを許さず正義を信じる眼。ずっと周囲の人たちを騙して生きていた名前には持ち得なかったものだ。
名前もまたこの少年に動かされる人間の一人になっている。

「必要な要素は2つよ。1つ目は公安が撤退する名目。この場合赤井捜査官……FBIが日本警察と対抗する意思がないと示すこと」

名前は沖矢を振り返る。

「楠田陸道は自殺だったんですよね」
「はい」
「遺体を発見したのがあなた方FBIなら“あれ”をお持ちのはずです。渡していただけますか」

こめかみに人差し指を当てる仕草に沖矢が苦笑する。

「わかりました。あなたたちに託しましょう」
「ありがとうございます。これで公安は情報提供をしたFBIと対立する理由を失います」

だがこれだけでは不完全だ。2つ目とあわせることで本当の効力を発揮する。

「2つ目は降谷の優位を崩すこと。彼がここまで強気で赤井捜査官を追えるのはなぜだと思いますか?」
「彼はあくまでバーボン……組織の人間として裏切り者を追っているからですね」
「そうです。そこには公安もFBIも存在しません。ですがスターリング捜査官たちを巻き込む以上FBIは無関係ではなくなります」
「なるほど。安室さんを同じ土俵に上げるんだね」

コナンの回答に笑って頷く。

「彼はまだあなたたちが降谷零に辿り着いたことを知らない。だからそこを突く。バーボンは公安警察の降谷零。FBI対公安の図にしてしまえば、1つ目の要素が彼の抑止力として働く」

赤井秀一に対する憎しみはあれど、彼は多くの部下を率いている状況下で個人の感情を優先する男ではない。自分の正体を知られた以上、深追いするのが得策ではないと判断するに違いない。

「ねぇ…今更何だけど、ケイさんは僕たちに協力して本当に大丈夫なの?」

心配そうなコナンに思わず笑いがこぼれる。

「コナン君は私から公安の計画を引き出そうとはしないのね」

名前から降谷の作戦を聞き出す。1番手っ取り早いにもかかわらずコナンはそれを良しとしない。だからこそ名前はこの少年を助けたいと思うのだろう。

「大丈夫よ。私が作戦に反対していることは彼も知ってるから」
「ええっ!?」
「それでも彼は私がゼロに不利益になることをしないと信じているのよ。彼がゼロとしての判断を下すと私が確信しているようにね」

結果的に公安は楠田陸道の使用した拳銃を手に入れることができる。赤井秀一を捕まえることはできないだろうが、FBIと対立する道は避けられる。

(そしてもう一つ……)

ゼロとしての判断はもちろんだが、名前は個人的にも赤井秀一には死んでもらいたくない理由があるのだ。

「なるほど。似ていますね」

コナンの後ろでずっと静かに控えていた優作が久しぶりに口を開いた。

「コナン君からあなたのことをどこか捉えどころのないフワフワとした女性だと聞いていたのですが……」

そんな風に言っていたのか。混乱させたり厳しいことを言ってきたはずなので、その割には好意的に解釈してくれたものだ。沖矢と何やら話しているコナンの小さな背中に感謝する。

「間違ってはいないでしょうが、私には少し違って見えます」

名前は黙って優作の言葉の続きを待った。

「飄々としていますが自分の目的は必ず果たす。あなたのお父上にそっくりです」

優作は名前を親しみを込めて見つめていた。その向こうに懐かしい人間がいるかのように。

「私は父似なんですよ」

くすぐったい気持ちに、名前ははにかんで笑った。



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