Dream


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Episode1. 03



きっかけは降谷が指摘した通りだ。
毛利小五郎。最近話題の探偵だ。その彼が関連した事件の調書が警視庁から盗まれた。
そのことについては大まかな顛末を降谷から聞いた。降谷が潜入している組織が関わっていたこと。FBIを誘き出すためだったこと。その主犯がベルモットであったこと。ベルモットにも近しいバーボンというコードネームを持つ男からの情報は確かだ。
名前が気になったのは調書が盗まれたことではない。
改めて調べて驚かされたのだ。彼が解決した事件の多さに。もちろん名前は警視庁以外の管轄の調書まで確認した。そしてその全てに毛利小五郎と並んで記載のあった名前が目に入った。


江戸川コナン


毛利探偵事務所で預かっているという小学生だ。
事件と関わりがあるとは思えない。何と言ってもまだ子供だ。だが親元を離れた子供がこんなにも事件と遭遇している。子供が凄惨な現場を何度も目撃していいはずがない。彼はどういった経緯であそこにいるのだろうか。だから名前は調べたのだ、彼を。

「すみません。このお店のおすすめのメニューって何ですか?」
「そうですね。カラスミのパスタは自信作です」
「梓…さんでしたよね?梓さんが作るんですか?」
「はい!最近よくいらしてくれてますよね?」

江戸川コナンが居候する毛利探偵事務所。その1階にある喫茶ポアロ。名前はそこに目を付けた。同じ曜日と時間帯に来店し、毎回同じメニューを注文した。
思惑通り梓が名前を認識するようになった頃合いを見計らってきっかけを作った。それから梓とはカウンター越しに話をするようになっていった。
そのうちに毛利探偵事務所の人間とかち合うこともあったが、話しかけることはせず同じ店にいる客として過ごす日が続いた。

「お姉さん!携帯落としたよ!」

小さな手で名前の携帯を拾ってくれたのは江戸川コナンだった。
名前がポアロの常連として認識され始めた頃の出来事だ。

「何してるの?コナン君」
「このお姉さんが携帯を落としちゃって…」

コナンの後ろから来たのは毛利小五郎の一人娘の毛利蘭だった。帝丹高校の空手部主将には見えない可愛い子だ。

「拾ってくれてありがとう」

名前が屈んでコナンに目線を合わせて御礼を言うと照れたように鼻を擦った。

「お姉さん最近ポアロによく来るよね」
「ええ。ここのコーヒーがとても好みの味なの。梓ちゃんとお喋りするのも楽しいし」
「あのっ!もし良ければご一緒しませんか?すごい綺麗な人がいるなって思ってたんです。モデルさんですか?」
「まさか。そんな華やかな仕事はしてないわよ」

むしろ正反対の後ろ暗い仕事なら山ほどしているのだが、そんなことはおくびにも出さない。ほんの少し恥ずかしそうな笑みを作ってやると「もったいない」と残念そうにしている。
誘いに乗ってコナンたちのいるテーブルへ移動すると「あ」と慌てて蘭が名前を振り返り花が咲いたように微笑んだ。

「私、毛利蘭って言います」

蘭は本当に素直で優しい少女なのだろう。この短時間でも好感を抱くには十分だった。

「待田ケイよ。宜しくね」

多少の後ろめたさはあっても、その名を名乗ることに躊躇いはない。蘭に笑いかけてから自然に視線をコナンへと移すと、コナンもあどけない表情で名前を見上げた。

「ボクは江戸川コナンだよ」

江戸川コナン。
ただ名を口にしたその瞬間、名前の直感があることを告げた。

(江戸川コナンは本名じゃない)

根拠などない。だがポアロに通い始めたのはこの直感に至るためだった。
名前は手の中にある携帯を気付かれないように丁寧にハンカチで包んで鞄へしまった。


□ □ □


数分の無言の攻防の末、根負けしたのは意外にも降谷の方だった。大きく息を吐くと壁に閉じ込めていた名前の体を解放した。

「言うつもりがない人間を待ったところで無駄だな」

くるりと背を向けてキッチンに向かうとお湯を沸かし始める。
納得はしていないだろうが、今のところは見逃してもらえるらしい。

「一つだけ確認しておく。君が握っている情報は僕にとって不利益になるか?」

あの日、ポアロを後にした名前は公安鑑識へ向かった。
そこで携帯についた指紋を採取して照合した。結果は信じられないものだったが、名前の直感を裏付けるものだったし周辺事実とも一致していた。

「私は降谷のバディだけど部下じゃない。私には私の正義がある。降谷の不利益になっても私はそれを貫くわ」

お湯が沸く甲高い音が鳴る。
降谷は驚くでもなくブルーの瞳で名前を映すと、クッと肩を震わせた。

「何がおかしいのよ」
「いやぁこんな面と向かって『絶対の味方じゃない』と言われているのに、君だけは絶対に僕を裏切らないと確信できるんだ」

降谷がとても嬉しそうに顔を緩めるので、そんなつもり言ったのではない名前の方が恥ずかしくなってくる。降谷は熱を持った名前の頬に手を添える。

「君の実力はわかっているしへマもしないと思ってる。でも心配していることを覚えていてほしい」
「それ、降谷にもブーメランだからね。あと私に黙ってポアロでバイトを始めたことはまだ許してないから」
「…」

しまった、という顔をした降谷の手を引き離す。コンロの火を止めてようやく静かになった部屋で小さな彼を思い浮かべる。
一番心配すべきはあの子だろう。公安鑑識のデータは全て削除した。あとはどう降谷の目から逃れるかだ。
そしてあの子もまた真実を見抜く探偵だ。あの子が先か降谷が先か。
もしくは先に暴かれるのは名前かもしれない。
小さな探偵が辿り着く真実のピースは名前の手の中にある。



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